第4章 体育祭、それぞれの準備
「そこはさー、嘘でも“そんなことない”って励ましてよ」
「やだね!
……そん時は、ちゃんと慰めてあげる」
「え?わっ」
「そろそろ自主トレの時間っしょ?」「昼休み終わっちゃうぞー」と友人達がグイグイとアザミの背を押し、教室の外に追いやる。
「ま、待って!
私、二人に話したかったんだけど、ずっと言えなくて…っ
体育祭、頑張ろうって、思えたのは…!」
「いーから!今は行ってきな」
友人達はアザミにひらひらと手を降る。
「何で頑張ってたとか、きっかけとか、あとで詳しく!」
「大丈夫、ちゃんと待ってるから!」
アザミを教室の外へ立たせ、声援の代わりにガッツポーズを送る。
「「いってらっしゃい!」」
「ッ、……うんっ!」
“ありがとう”
物言いははっきりしてて冷たく感じてしまうが、何も言わずに自分を見守り、当たり前に背中を押してくれる友人達。お礼を言わなければいけないのに。
今、口を開いたら涙が溢れ出てしまいそうで、言うことができなかった。
ずっと言えなかった。
本当の事を伝えたら、友人達が自分から離れてしまうかもしれない。そう思っていたから。しかし、そんな思考こそ無意味なことだった。
「……いって、くる!」
何も後悔なんてしていない。
ヒーロー科に進学しなかったこと、経営科に進学したこと。
心残りだったのが、幼い頃に抱いていた“ヒーローになる”夢を置き去りにしたこと。どんどん幼い頃の夢から遠ざかるのに、どうしても恋しくなるばかりで。
頭ではこうするべきだって分かっていても、心がついていけなくて。自分がどこにいるべきなのか、自分はどこに向かってるのか、分からなくなってしまう。
(……決着、つけるんだ!)
この夏、最後の体育祭で。
幼い頃の夢に、燻った想いに、きちんと整理をつけたい。
「……それに、ひとりじゃないっ」
背中を押してくれる友人達がいる。
もがいている私を支えてくれる人も、夢に向き合わせてくれた幼馴染達もいる。次々と皆の顔が浮かび、自然に力と笑みが湧いてくる。
「……もう逃げないっ!!」
チリリンッ
アザミが走り去ったあと、鈴の音が軽やかに響いた。
体育祭まで、あと4日。