第4章 体育祭、それぞれの準備
『アザミちゃんっ、大丈夫…?!』
『デ、デクくん…っ』
(――――は?)
しかし、俺よりも早くアザミに駆け寄り手を差し出すデク。
デクはアザミのあの姿に怯むことなく、むしろ額を寄せて笑い合う。
俺は何故か二人にこれ以上近づくことができず、その場で棒立ちになるばかりだった。
そうしているうちにアザミはだんだん落ち着き、いつもの彼女の…人の姿に戻っていった。
『デクくんは、もう、私のヒーローだよ!』
思わぬ言葉に聞き間違いじゃないかと、自分の耳を疑った。
(無個性のデクがヒーロー…?)
無個性がヒーローになれる訳無えだろーが!
今すぐ駆け寄って、否定して、馬鹿にして。
早くそうしないと。そうしなければ。
何でも出来る1番スゲー俺の存在が危ぶまれる気がして。しかし、そう思えば思う程、俺は一歩も動くことが出来なかった。
そしてもっと耳を疑う言葉が、俺の胸を抉る。
『じゃ、じゃあ…っ!
泣き虫が治ったら、僕とケッコンしてくれる?』
『いいよ!お嫁さんになってあげるね!』
二人は指切りげんまんと、細くて小さい小指同士を絡ませる。そして絡ませた小指を解き、互いに手を取り合い、夕日に照らされながら仲良く帰っていく。
俺が近くにいることに気づきもしないで。
『…デクの、くせに…ッ』
無個性のくせに…ッッ!!!
俺が最初にアザミを見つけたんだ
俺が最初に助けようとしたんだ
俺が最初に、アザミを好きになったんだ―――
*
「…クソがぁッ」
余計なことまで思い出してしまった。
…あの出来事からだ。デクを苛めるようになったのは。
「にゃーん」
「まだ居やがったのかよ、お前」
危ねえからどっか行け、と言うと、猫は了承したかのように廃屋の隙間からスッと抜けて行った。
「ここからだ」
俺はここで、雄英高で1番になってやる。
今も昔も何1つやる事は変わらねぇ、奪い取るだけだ。
「――――アザミも、だ」
そう、全て。
完膚なき1位で払拭する。
体育祭まで、あと5日。