第4章 体育祭、それぞれの準備
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ガキん時、アザミが虐められ泣いてる場に鉢合わせした。俺は迷わずその場に飛び込んだ。
『アザミをいじめんじゃねえ!』
圧勝、とはいかず。
ボロボロにはなったがアザミを虐めていた彼女の同級生達を返り討ちにしてやった。
『かっちゃん、ありがと……でも、ッない、で…』
『はあ?何言って、――――ッ!』
言葉を失った。
アザミはずっと俯いていたから、今になってやっと気づく。
そこに居たのは間違いなくアザミだった―――しかし、アザミの顔を覆う手は見慣れた手ではなく、犬や猫のようなフサフサした毛が生えており、鋭い爪がチラリと見えた。そして頭の上にはピンとした獣の耳が生えている。
おそらく、これは彼女の個性によるものだ。
『私を、見ないで…ッ』
俯いた泣き顔を僅かに上げたアザミは。
片目はいつものアザミの目だが、もう片方はまるで獣の瞳で、瞳孔が大きく開いていた。そして人間にはないはずの動物特有の口髭がある。薄く開いた口からでも分かるほど人間離れした立派な犬歯が生えており、容易に肉を噛み千切れる事が想像できた。極めつけ、肌は所々に動物特有の毛が生えている。
“こんな奴庇いやがって―――
アザミなんて化け物だろ!”
アザミを虐めた奴が立ち去る際に言い放った言葉。…そうゆうことだったのか。
アザミは“個性がうまく使えない”とよく言っていた。普段、アザミが個性を使いたがらないのも、使わなかったのも、コレが理由だったのだと知る。
『か、かっちゃ…っ』
アザミに名を呼ばれるも普段からは想像できない彼女の姿に、まだ幼い俺は無意識に恐怖した。
『……ッッ』
思わず一歩だけ、後ずさってしまった。
そんな俺を見てか、アザミは再び泣き出してしまった。
『……っ、うえーん』
『〜〜〜ッ!!』
俺はアザミに背を向け走った。
一刻も早くアザミを隠してやらねばと。頭からすっぽり被れるようなフードが付いた上着を取りに行かねばと。慌てて自宅まで取りに帰った。
『ハアッ、ハッ……お…おい…ッ』
まだそこに座り込んで泣いているアザミに、これ使えよ、と。
声をかけるため、駆け寄ろうとした。