第4章 体育祭、それぞれの準備
猫は切島の駄菓子を持つ手の隣に腰を下ろす。
まるで駄菓子を強請るようなその姿に、切島は見覚えがあった。
「……あっ!!
お前、うちのクラスの女子からオヤツもらってたろ?!麗日とか八百万とかから!」
「にゃあ」
「やっぱりなー!
よくこんなとこまで来たな!?つか、腹減ってんのか?」
「にゃー」
「…コレ、食うか?」
「にゃっ」
人の言葉がよくわかるようで「待ってました」と言わんばかりに簡単に寄ってきた。
(ホント、こんな簡単に…)
誰かにあげてしまっていいのだろうか。
…いや、そもそも俺なんて彼女の眼中になかったじゃないか。
そうだ、眼中に入る訳がねぇ。
こんな内気で、個性も硬化というだけの。地味な俺なんかが。アザミさんに気にかけてもらえる訳がない。
(せめて、アザミさんの目を引く“強個性”だったら……)
ふと、彼女との会話を思い出す。
*
『切島くんって漢気ヒーロー紅頼雄斗(クリムゾンライオット)が好きなの?』
『えっ?!アザミさん知ってんすか?!』
『もちろん知ってるよ〜!
古い世代のヒーローだけど、硬派な漢気がカッコいいよね!』
『うおおお!そうなんスよ!!』
『“心に漢気があれば、個性なんて関係ねェ”』
『!、え』
アザミは背筋をビシッと伸ばし胸の前で大きく腕を組む。それは切島の憧れる紅頼雄斗の真似であった。分かる人なんて自分以外ほぼいないだろう。
『めっちゃ知ってんじゃないッスか!!』
『漢気って強いからあるのかなーって思ってたけど、違うんだね!
自分の弱さを受け入れて、それでも怖さに立ち向かう…紅頼雄斗のそうゆうとこ、本当にカッコいい!』
『…』
『“後悔のねぇ生き方、それが俺の漢気よ”…ってね!』
『…そ、そッス!!だから俺の目指すヒーロー像は紅頼雄斗そのものなんス!!』
『じゃあ切島くんは!
すんっごいカッコいいヒーローになるね!!
もう既に漢気溢れる男子だもんね!』
『いや、そんな!俺なんて…
(まだまだ、今の“俺”ですら板についてねェのに…)』
否定すらできず、言い淀んでしまった。
まるで謙遜したような素振りをしてその場を凌いでしまった。
*
そうだ、俺は。
中学までの情けない自分と決別を決意したではないか。