第4章 体育祭、それぞれの準備
* * *
授業を終えた放課後。
雄英高校の演習場USJ(ウソの災害や事故ルーム)にてトレーニングをする生徒が多い今日。皆、体育祭に向け準備をしている。
「あちー」
切島鋭児郎もその内の1人である。
室内で体作りや個性伸ばしのトレーニングを終えた所だ。
「あー腹減った。
なんか食うもんあったっけか?」
切島は水分補給をしながら闇雲に鞄を漁る。
お菓子の袋らしきモノが手に当たり引っ張り出す。
「あ、これ!アザミさんがくれたヤツ」
それはアザミから貰った駄菓子であった。
『お金貸してくれてありがとう!
お肉好きって言ってたよね?』
お金の入った封筒と手渡されたビニール袋を覗けば。小学生の頃に食べていたカルパス、ビiッグカツ…といった肉系の駄菓子がどっさり入っていた。
あぁ、だからA組に来たとき“忘れた”と言ってたのだな。小銭だけの返却ならあの時にでもできたはずだ。
「わざわざ良かったのに」
しかし折角の厚意だ、頂こう。
沢山の駄菓子の中から適当にひとつ摘み上げ、ビリビリと包装紙を破く。
大きく口を開け、立派なギザギザの歯を覗かせた。
「あーーーー…………
………やめた」
アザミを思い出すと、胸が締め付けられる。
あれからだ、USJ襲撃事件からだ。
あの日、アザミはその話を聞きつけ一目散に1-Aに来たのだろう。あの慌てようは凄まじかった。
そして俺が『アザミさん!』と呼びかけたものの見向きも…というか、俺のことなんて全く見えていなかった。
『デクくん!!かっちゃん…ッ!!!』
そう、あの二人以外は。
本当に心配したのだろう。爆豪を見つけて心底安心したようだった。その時に思った。オレは眼中にもないって。その日知り合ったばかりなのだから、当たり前だ。しかしどうしようもなく惨めで、悲しかった。
「…なんでだろうなぁ」
何故、こうも彼女が気になるのだろうか。
先輩だから?可愛かったから?優しかったから?
切島は開けた駄菓子を持つ手をぶらりと下げた。
「にゃぁん」
「…猫?」
「にゃー」
「何でこんなとこに猫がいんだ?!」
「にゃーん」
広い演習場だが、猫が入ってこられるものなのだろうか。
猫に問うと返事はしてくれるものの、答えはわかりはしない。