第4章 体育祭、それぞれの準備
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早起きは三文の徳
昔、お偉い誰かが残した言葉
「うーん!いい天気やー!」
何処までも続く青い空、青い海。
初夏の風が潮の香りと共に、春の名残の肌寒さも運んできた。1日中半袖で過ごすのはまだ早い、そんな今日この頃。
「いっちに!さんし…っと!」
雄英高校近くの海辺にて。
ジャージに袖を通した麗日お茶子が両手を組み、空に向かって体をぐーっと伸ばす。
「よし!朝の特訓、おしまい!」
早起きしたため、日課のトレーニングを終えることができた。早起きは三文の徳。この言葉を残した人はやはり偉い。
「あ、猫や!」
「にゃーん」
海水に濡れるのが嫌なのだろうか。
猫は絶対に波がかからないであろう防波堤の上で尻尾を揺らしていた。その姿は遠巻きで麗日の様子を伺っているように見えた。
「ほら、おいでー」
怖くないよ、と。麗日はゆっくりした動作で猫に近づく。猫は人馴れしているようですんなりと麗日の手に擦り寄ってきた。
「か…、可愛い〜っ!!」
あまりの可愛さに悶える麗日。
「君、昼休みに会った猫ちゃんやろ?」
「にゃあん」
猫は返事を返すように鳴く。
猫は麗日に抱かれても大人しく、腕の中でゴロゴロと喉を鳴らす。可愛さに絆され、麗日の緊張が解れていく。
「ウチな」
猫に言葉が通じないのは当たり前だ。
それにも関わらず、動物に言葉をかけてしまうのは何故だろう。
「体育祭で成績残して、ヒーローになって、お金稼いで
父ちゃんと母ちゃんに楽させたげるんだ」
それにね、と麗日は猫に話し続ける。
「人の喜ぶ顔が好きだ!」
困ってる人を助けて、喜んでもらえて、お金が稼げる。こんな凄い事ないやろ?と、猫に笑いかければ肯定の返事をするかのように「にゃー」と鳴いた。
「体育祭、頑張らんと…!」
麗日はグッと拳を空高く掲げた。
「―――さて、もう学校行かなきゃ!」
猫を抱き抱えたまま立ち上がる。
あ、そういえば……
「この間、相澤先生に怒られてたやろ?」
何したん?と聞いた途端、問に逃げ出すように猫はスルッと麗日の腕から抜け出した。
「あーあ!行っちゃった…」
麗日の視界から猫はどんどん小さくなっていく。
空を漂う雲はどんどん風に流されていった。
体育祭まで、あと7日。