第4章 体育祭、それぞれの準備
心地良い五月晴れ。
桜はとうに散り終え、新緑が目に鮮やかな季節となる。雄英高校の建物を囲んでいる木々も青々と葉を成す。
初夏の風が若葉の香りを漂わせてながら、徒にとひとりの女生徒の足元から巻き上がった。
「わ、風強っ」
猫柳アザミは慌ててスカートが捲れぬよう押える。
風が強いのは自然現象のせいだけではないかもしれない。
「あ、飛行機…!」
彼女の、雄英高校の建物の上を、飛行機が至近距離で通り過ぎていった。
「わー…!」
アザミは校門前で思わず足を止めた。
ゴォォォーと巨大な轟音を轟かせながら空を突き進む飛行機が、彼女の目には力強く、そして勇ましく果断に見えた。
(…学校、行きたくないなあ)
これから待ち受ける困難や試練を思うと、あと一歩が踏み出せなかった。
(宣戦布告したじゃない、私…!)
もう後には退けない。退路は自ら断った。
突き進むだけ。
「でも、やっぱり。怖い…」
体育祭後、自分の居場所が変わるかもしれない。いや、無くなってしまうかもしれない。そう思うとどうしようもなく怖く、アザミは校門をくぐり抜けるあと一歩が踏み出せず――――
キーンコーンカーンコーン
「あれ、この予鈴は…」
朝礼が始まる5分前の予鈴が鳴り響く。
「わーーーーーーー!!!
ヤバい!!遅刻するーーー!!!!」
今日は朝一に英単語の小テストだったああ!!と一人叫ぶアザミ。
あとは突き進むだけ、それだけの事。
しかし彼女にとってどうしても必要な勇気であり、今も…いや、ずっと前から探し求めている。
――――チリンっ、チリリン
とある一匹の猫が、鈴の音を鳴らす。
そして猫は転がるように雄英高校の校門をくぐり抜け去って行った。
体育祭まで、あと8日。