第8章 躾
「人には昼飯を摂れ、仮眠を取れと言う癖に自分は取らねぇとか……」
「ごっ、ごめんなさい……」
阿近の纏う雰囲気が怖くて俯いてしまう。
確かに阿近の言う通りだ、何も弁解することはない。
人に言っておいて自分は出来てないとか最低だ。
今後阿近に注意する資格はない。
「オマケに1週間も連絡も寄越さねぇで。
任務が忙しいのは分かるが一言ぐらいメッセージくれても良いだろ」
「はぇ?」
「メッセージも来ない、電話もない。
やっと帰って来たかと思えば別の男に背負われて寝てるし」
「っ、連絡くれなかったのは阿近も同じでしょ!」
寂しかったのは私だけじゃないと安心した反面、理不尽な阿近の言い様につい言い返してしまう。
「あ?俺はお前の連絡先知らねぇんだよ」
「へ……?ウソ」
「嘘じゃねぇ。
俺は番号教えてんのに千早から1回も連絡来ねぇし、連絡先を知る術がねぇ」
「あ……」
そこまで言われて、一気に血の気が引いていくのが分かる。
確かに阿近の連絡先は聞いた。
でも特に電話で話す用件もなくて連絡してなかった。
私の連絡先は教えてないし、阿近が私の連絡先を知る方法は私からの電話以外なかっただろう。
私はなんて酷いことをしていたんだ。
「ごめんなさい……」
「悪いと思ってんなら今教えろ」
「あの、伝令神機……部屋に……」
「あぁ?」
「ごめんなさい……」
そう謝ると阿近は隠しもせず、大きな溜め息を吐いた。
「今日の仕事は?」
「えと、午後休だけど……」
「なら丁度良いな。俺も午後は休みだ。千早の部屋行くぞ」
半ば強引に立たされ、阿近に腕を引かれる形で研究室を出た。
私の部屋に向かう途中も阿近と私の間に会話はない。
100%私が悪いのだけど、とても気まずい。
*****
部屋に入り、阿近を客間に案内しようとするとそのまま無言で寝室に向かっていた。
敷きっぱなしだった布団の上に座ると、阿近は小さく笑った。
「躾の時間だ。悪いと思ってんなら、俺の言うこと聞けるよな?」
口端だけを上げて笑う阿近の目は、ギラギラと熱が篭っている。
悪いことを考えている時の表情だ。
凄く意地悪なことを考えているのだろう。
でも今の私にはそれを拒否する術は持たない。
阿近の言葉に小さく頷く。