第6章 寝不足の罠
「あ、はは……ごめんなさい。まだ上手く切り替えられなくて」
「?何を切り替える必要がある?」
首を傾げる阿近。
その仕草は凄く可愛いけど、でも全く意識されてないのだと私の傷を抉っている。
「あのー、阿近さん……?その話は俺が居なくなってからに……」
「やっ、待って、置いてかないで」
腰が引けている檜佐木副隊長を無理矢理その場に引き止める。
この場に居るのはかなり気まずいだろう。
でも2人きりにされた方がもっと気まずくて息が詰まりそうだ。
「何を切り替えるのかは知らねぇが……俺はお前が好きだ」
「へ……?」
「は!?」
私と檜佐木副隊長の声が重なる。
その後檜佐木副隊長はやべ、と口を塞いで隅に逃げていた。
「でなきゃ研究室にも入らせねぇし、何よりメシなんか行かねぇ。
人の話もロクに聞かねぇで言い逃げしやがって……お前は自分の気持ちが言えたら満足なのか?
俺の気持ちはどうだって良いって言うのか?」
「あ、えっと、その……」
診察台から起き上がろうとしていた私と距離を詰める阿近。
顔はもうすぐ傍にあって、息が掛かりそうなまでに近い。
ジッと赤い瞳で見つめられて、息が出来なくなる。
阿近が好き?私のことを?
そんな夢のような話が現実にあるのだろうか。
「あの日、お前が何を勘違いしてたのかは知らねぇが俺は千早以外興味ねぇ」
「ちょ、ちょっと待って、阿近。頭が混乱してる」
「あ?待たねーよ」
「阿近は私のこと好きなの?恋愛対象として?」
「そう何度も言ってんだろ。そこに付いてる耳は飾りか?」
耳を引っ張られ、その痛みにこれが現実であることを悟る。
こんなことってあるのだろうか。
「歳上でも良いの?」
「それ以上言うとこの場で犯すぞ」
「私若くないし、スタイルだって良くないよ?」
「よし、犯されてぇんだな」
死覇装の合わせから手が侵入して来る。
その手は私のそこまで大きくない胸を優しく撫でる。
と、そこで制止の声を上げたのは私でも阿近でもなくて。
「ちょちょちょ、俺居ますって!阿近さん冷静になってください!」
「なんだ修、まだ居たのか」
「なんだじゃないっすよ!引き止めたの神咲隊長ですからね!?」
顔を真っ赤にしてワタワタと焦る檜佐木副隊長。
その存在をすっかり忘れていた。