第6章 寝不足の罠
「返事してから開けろっていつも言ってるだろ、修」
「すんません。今日は俺付き添いなもんで」
「付き添い?」
阿近がこちらを向きそうな気配を察知し、思わず檜佐木副隊長の後ろに隠れてしまった。
やっぱりまだ顔を合わせるのは気まずい。
出来ることなら逃げ出したい。
でも義眼の交換をしない訳にはいかないし……と頭の中で思考が纏まらない。
「あぁ。月一の義眼交換か。で、なんでそいつは隠れてる」
「阿近さんが怖いからじゃないっすか?」
「阿呆か。おい、隠れてねぇで始めるぞ」
「う、うん」
「修は適当に過ごしてろ。得意だろ?」
「まぁ。じゃあお茶煎れますね」
診察台に横になり、テキパキと無言で準備をする阿近を横目で盗み見る。
相変わらず無駄のない動きだ。
その姿を眺めているとゴム手袋をはめ終わった阿近が小さく息を吐いた。
「っし、始めるぞ」
その言葉に、前回のあの強烈な痛みを思い出して身体が強ばる。
「い、痛い?」
「あ?外す時は痛かねぇよ」
「そっか」
「付ける時は痛ぇけどな」
「だよね……」
今回は死覇装のまま処置がスタートする。
義眼を抜かれる感覚はなんだか変な感じがしたけど、阿近の言っていた通り全然痛みはなかった。
問題は今からだ。
阿近が新しい義眼を手にニヤリと笑みを深くする。
その様子は心底楽しそうだ。
「目、閉じんなよ」
強制的に目を開かされ、義眼を挿入される。
今回も確かに痛いけれど前回程ではないかも。
耐性出来たかな。
「おら、終わりだ」
「あ、ありがとう」
「あれ、もう終わりっすか?今回は早かったっすね」
「あぁ。今回は抵抗しなかったからな」
檜佐木副隊長がお疲れ様ですと、お茶を出してくれた。
緊張で喉がカラカラだったから凄く助かるタイミングだ。
「千早、お前なんでここに来なくなった」
「え……」
その問いに私の思考が停止する。
私だけじゃなく、近くに居た檜佐木副隊長も固まってしまっている。
なんで唐突にその話をするのだろうか。
フラれてしまっても今まで通りに出来る程、私は強い女じゃない。
切り替えるまで時間が掛かる。