第6章 寝不足の罠
「そうなのよね……そろそろ交換なのよね」
「?嫌なんすか?」
「あっ、ごめんね?そういう訳じゃないんです。
ただちょっと色々あって行きづらくて……あ、お茶飲みます?」
「あ、頂きます」
執務室の隣にある給湯室でお茶を沸かす。
誰かにお茶を出すのなんて久しぶりだな。
湯気の立つ湯呑みを檜佐木副隊長の前に置く。
「ありがとうございます。あの、つかぬ事をお聞きしますが」
「うん?」
「神咲隊長と阿近さんってお付き合いなさってるんですか?」
「へ!?っ、けほ、けほっ……」
「わっ、すいませ、大丈夫すか!?」
丁度お茶を飲もうとしていたタイミングで聞かれた言葉に、上手く飲み込めなかったお茶が変な器官に入り込んでしまう。
咳が止まらない。
「付き合ってないです。私の勝手な片思い」
「え!?す、すいません!
俺が研究室行く度に神咲隊長の様子や近況を聞いて来るからてっきり……ほんと、すいません!」
バッと勢い良く頭を下げる檜佐木副隊長。
阿近、一応私のこと気にしてくれてるんだ。やっぱり優しいな。
「あの、気まずいなら俺一緒に行きましょうか?」
「良いんですか?」
「はい。俺は仕事が一区切りついたので神咲隊長さえ良ければっすけど」
「ありがとうございます!すぐ支度します」
檜佐木副隊長の言葉に甘えて机の上の書類を片付け始める。
1人で行く勇気はないけど、誰かと一緒ならまだ気まずい空気もどうにかなりそうだ。
檜佐木副隊長は阿近と仲良さそうだし。
「行きましょう、檜佐木副隊長。
あ、ごめんなさい、ついでに各隊に運ぶ書類も一緒に届けても良いですか?」
「?もちろんっす」
「ありがとうございます」
書類を抱えていると、檜佐木副隊長が持ちますよと半分以上持ってくれた。
そこそこ量があって重たいのに申し訳ないけど正直凄く有難い。
「そういえば神咲隊長って俺に対しても敬語なんすね」
「あ、ごめんなさい。嫌でした?」
「やっ、そういうつもりじゃないっす。なんか新鮮だなって思っただけで」
各隊に書類を届け終え、あっという間にやって来てしまった十二番隊隊舎。
そして阿近の研究室。
ノックする勇気がなくて檜佐木副隊長を見上げると、彼は何事もなかったかのように小さくノックして研究室のドアを開けた。