第6章 寝不足の罠
「……悪かった」
少しの沈黙のあと、阿近が手枷を外してくれた。
ようやく自由になったけど身体は思うように動かない。
阿近も固まってしまっている。
私からの告白なんて迷惑でしかないよね。
ただでさえ歳上からの告白なんて困ると思うのに、その上隊長という肩書きがあったら尚更返答に困るだろう。
「ごめんなさい、もう仕事の邪魔しないから」
パッと身なりを整え、研究室を飛び出した。
なんて惨めなんだ。
阿近の優しさに漬け込んで迷惑を掛けてしまった。
瞬歩を使って隊舎まで戻り、執務室に篭った。
朝整頓していた書類を片っ端から片付けていく。
幸いにもさっき取れた仮眠のお陰で身体は楽だ。
*****
阿近にフラれてから早いようで1週間が経過しようとしている。
そろそろ義眼の交換の時期なのだが、この前のこともあり気まずくて連絡を取れていない。
公示も出て今日から皆順々に異動して来る。
私がしっかりしなくては。
今頑張らなくてどうするのか。
重い身体に鞭を打ち、仕事を進める。
「本日より、よろしくお願いします。
今までの業務内容と少し異なり最初は戸惑うことも多々あると思いますが、焦らず丁寧にこなしていきましょう。
何か分からないことがあればいつでも遠慮なく仰ってくださいね」
「「「よろしくお願いします!」」」
今日からほとんどの隊員が勤務開始になる。
始動初日は何が起こるか分からない。
どんなことが起きてもすぐに対応出来るようにしておかないと。
執務室に隊士を案内をする。
三席以下の隊士と、隊長格の執務室は別なのだ。
「失礼します、九番隊檜佐木です。入っても宜しいでしょうか?」
「はーい、どうぞ」
「始業早々すみません、書類を届けに来ました」
「お疲れ様です。ありがとう。
檜佐木副隊長が書類を配達するなんて珍しいですね」
「まぁ、書類配達は建前で……」
と、言いにくそうに頬を掻いている。
一体何かあったのだろうか。
「どうしました?」
「あー、いや……プライベートなことなんで凄い言い難いんすけど」
「うん?」
「最近阿近さんとどうすか?」
「へ?阿近?」
「はい。あ、いや、別に変な意味はねーんすけど……阿近さんが元気ねぇって言うか……あ、それとは別に義眼の交換がそろそろだと伝言を頼まれまして」