第1章 引退、そして始まり
研究室に鍵を掛け、白衣を着たまま隊舎を出た阿近さん。
白昼の太陽の光に眩しそうに目を細め、欠伸をする。
「で、どこに行くんだ」
「あ……そうでしたね。
何か食べたい物ありますか?」
「別に、なんでも」
「苦手な物とか食べられない物あります?」
「ない」
「じゃあお蕎麦食べに行きましょ」
阿近さんの腕を引っ張り、歩く。
面倒そうに頭を掻くが、嫌そうな顔はしてない。
強引だったけど、大丈夫そうだね。
彼の不健康そうな顔色と目の下のクマを見ていたら、世話焼きの心が疼いた千早だった。
「阿近さんどのお蕎麦にします?」
「普通ので良い」
「分かりました。あ、すみませーん。
冷たい蕎麦2つお願いします」
私の居た頃からあるお店だけど、メニューがかなり増えていて戸惑った。
注文を済ませて、向かいに座る阿近さんを見ると頬杖をつき眠そうに欠伸を噛み殺していた。
「なんだ」
「あ、いえ。
こういうの迷惑じゃなかったですか?」
「今更だな。まぁ迷惑には迷惑だが、別に嫌な迷惑じゃない。
嫌なら嫌だと手を振り解くから変な心配しなくて良い」
不器用な言い方の阿近さんに笑みを浮かべる。
この人、なんだか可愛い。
その後すぐに蕎麦が届き、互いに食べ始める。
味は変わらず凄く美味しい。
「あら、千早ちゃんじゃないの」
「あ。京楽さん。浮竹さんも。
お久しぶり」
「久しぶりだね〜、何年振りかな?
しばらく見ない間にべっぴんさんになっちゃって、僕困っちゃう」
「おい京楽、さっき卯ノ花隊長に釘を刺されたばかりだろ?」
「ふふ、相変わらず仲が良いね」
2人のやり取りを見ていると、こっちまで笑顔になれる。
2人は私よりも年上だけど、敬語じゃなくて良いと言ってくれていた為、わりと昔からタメ口で話している。
統学院時代の先輩。
「千早ちゃん復帰なんだってね、楽しみだなぁ。いつから?
僕の八番隊においでよ〜、歓迎するよ」
「お前の八番隊は隊長が居るだろ?
それともお前が異動するのか?」
「やだなぁ、冗談だってば」