第1章 引退、そして始まり
「俺は阿近だ」
作業が一段落したらしく、目を合わせて言った。
色白で目に下にはくっきりとしたクマがある。
多忙なのか体質なのか、あまり寝ていないように見受けられる。
「神咲千早です。
よろしくお願いします」
「あぁ。
早速だが検査に移る。これに着替えろ」
検査着を手渡される。
「検査……?
目だけの検査じゃないんですか?」
「一応全部調べる。
総合データあった方が義眼作る時に調整が便利だしな」
「なるほど、分かりました」
検査着を受け取り、着替えられそうな場所を探す。
が、見渡す限り書類と薬品、器具の山。
着替えに使えそうな場所はなさそうだ。
「本棚の影にでも隠れて着替えろ。
生憎と更衣室なんてもんはねぇ」
忙しい時間を割いて義眼を作って貰う以上、贅沢は言えない。
大人しく阿近さんの言葉に従い、本棚のところで着替える。
一応隠れてるよね?見えないよね?
着替えている最中、阿近さんに見えてしまっていないか、気が気ではなかった。
「着替えたか?なら検査に移る」
「あ、はい」
阿近さんは無言でテキパキと検査を進めていく。
身長や体重、スリーサイズ、採血、霊圧測定、視力など。
調べる項目は多そうなのにあまり時間は掛からなかった。
全ての動きにムダがない、流石プロの技術者だ。
「しかし珍しい色だな。
その色に仕上げんのは骨を折りそうだ」
私の瞳の色は深い青。
髪と同じ濃く暗い青色。
青が濃い為、遠目からでは黒に見られがちだが至近距離で見るとやはり青色なのだ。
マジマジと瞳を見つめられ、色を観察しているだけだと分かってはいても流石に照れる。
「……2日後だ。
2日後までに仕上げてやる、取りに来い」
「はい。お願いします。
あ、そういえば阿近さんお腹空きませんか?」
時刻は既に正午を回っている。
サクサク進んだとはいえ、検査項目が多い以上どうしても時間が掛かってしまう。
「俺は昼は食わねぇ」
「え、それじゃいつか倒れますよ?
私奢りますから食べに行きましょ?何が良いですか?」
「……別に奢ってくれなくて良い」
「作業は一段落したんですよね?」
「はぁ……分かった」
面倒そうに溜め息を吐くが、頷いてくれた。