第6章 寝不足の罠
「今は仕事のこと忘れて寝ろ。
そんな状態で働いても良いことねぇぞ」
診察台に寝かせられ、毛布を掛けられる。
毛布からする阿近の匂いが落ち着く。
起きなきゃいけないのに起きられない。
私の意志とは反対に瞼はどんどん下がっていく。
「おやすみ」
阿近の声に安心して完全に意識を手放した。
日中に仕事を放棄して眠るのには凄く罪悪感があるけど、この眠気は心地良い。
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「そろそろ起きなくて良いのか?」
「ん……もうちょっとだけ」
阿近に身体を揺すられるけど、眠気の方が勝ってしまってまだ起きる気力が沸かない。
阿近はそんな私を小さく笑うと、ポツリと一言零した。
「あんま無防備に寝てっと襲うぞ」
「阿近が……?こんな歳上に興味ないでしょ。あんまり人をからかわないの」
「はぁ?」
「女の子だって単純な生き物だから真に受けちゃうでしょ」
「……ほんと鈍感」
阿近が私から離れて行くのを感じながら、私は再び意識を手放した。
あんなこと言われたら、阿近も私のことを好きで居てくれているんじゃないかって変な期待が湧いて来る。
そんなことある筈ないのに。
やっぱり一回り以上離れた相手なんて論外だろう。
「ん……ぁ……」
身体を触られる感覚がして無意識に小さな声が漏れる。
なんだろう、気持ち良い。
一瞬浮上した意識に身体は更に敏感になり、頭が冴えていく。
「んっ……って、阿近?何して……!?」
「なんだもう起きたのか。鈍いお前でもこの状況見りゃ分かんだろ。
襲ってんだよ」
私の上に跨り、はだけさせた胸元に舌を這わせる阿近。
なんでそんなに冷静なのか。
とりあえず起き上がろうと身体に力を入れたのにピクリとも動かない。
「え?」
よく見ると腕が診察台に固定されていた。
身動きが取れない。
「危機感なさ過ぎ。
仕事部屋とはいえ、男の部屋に2人きりで無防備に寝てる千早が悪い」
「ちょ、ちょっと待って、阿近」
「俺は十分待った」
突起を舐められ、身体が震える。
十分待ったってどういうこと。やっぱり邪魔だったってこと?
だからこんなことするの?