第5章 何でも屋
『千早。わらわを使うのは久方ぶりじゃな。
疲れはないのか?』
「……加蜜列、急にどうしたの。
自分から外に出て来るなんて珍しいじゃない」
加蜜列が自分から具象化するなんて珍しい。
普段は滅多に外に出て来ないのに。
『別に、ふと気になっただけじゃ。
いつになったらわらわにその身体を明け渡してくれるのじゃ?』
「全く……前から言ってるでしょう?あなたにこの身体を渡す時は来ないって」
加蜜列は常に私の身体を狙う。
加蜜列本体はその身体に善と悪、2つの魂を宿している。
善、つまり表の加蜜列は人々の傷を癒し、私の身体を案じてくれる。
裏の方の加蜜列は人を傷つけ、私の身体を乗っ取ろうとする。
強い能力を使いこなす反面、リスクも当然ある。
加蜜列は表の治癒の面だけピックアップされがちなのだが、実はこの裏の面こそが加蜜列が危険視されている理由である。
この裏の加蜜列に身体を渡してしまったら最後、世界の均衡は崩れると言われている。
それ程までに強力な斬魄刀なのだ。
「それ、お前の斬魄刀か?」
「!阿近……ごめん、起こしちゃった?」
「いや、自分で起きた。
人型の斬魄刀か……珍しいな」
『わらわは人間とは話をせぬ。千早、待っておるぞ』
妖しく笑い、刀の中へと戻っていった。
「変わってんな。斬魄刀ってのは皆ああなのか?」
「それぞれ、かな。
主に従順な斬魄刀も居れば、ひねくれ者も居るよ。
私の斬魄刀が表と裏の二面性がある変わり者なだけ」
「へぇ、詳しいんだな」
「うーん、まぁ」
「ここに居たのかネ、神咲千早!」
研究室のドアがいきなり開き涅隊長が入って来る。
その後ろには涅副隊長も立っている。
2人が一体私になんの用だろうか。
「局長、なんすか?」
面倒そうな顔を隠さず言う阿近。
「そこの女に用があるのだヨ。ネム、連行しろ」
「はい、マユリ様」
「え?ちょ……」
両腕を後ろで拘束される。
「……これ、力ずくで引き剥がしても良いかな?」
「ほぅ、どうやってだネ。
ネムはそこら辺の女と違う、身体をワタシが改造してやったからな」
「うーん……女の子に手をあげるのは趣味じゃないんだけど」
この状況、どうしようかな。