第14章 また寝てねぇだろ。
「阿近、我儘言っても良い?」
「内容による」
「阿近の手料理が食べたい。ダメ……かな?」
「あんま上手くねぇかもしれねぇぞ」
「食べたいの」
「分かった。期待はすんなよ」
大人しく待ってろと言って阿近が部屋を出て行く。
家主が居ない部屋にポツンと1人。
何をして良いのか分からず、とりあえず布団に寝転がる。
フワリと香る阿近の匂いに鼓動がトクトクと早鐘を打つ。
布団を頭まで掛けると阿近の匂いに包まれて凄く幸せな気分になる。
「どうしよう……なんだかいけないことをしてる気分になる」
全身を覆う大好きな阿近の匂いに、連日寝不足だった私の身体は意図も容易く言うことを聞かなくなる。
瞼が下がり、心地良い睡魔に襲われる。
せっかく阿近がご飯を作ってくれるんだから、ちゃんと起きてないと。
そう頭では思っているのに身体はピクリとも動かない。
*****
千早を部屋に残して夕飯の材料を買いに行く。
正直俺はメシなんか抜いても良かったが、千早には何か食べさせてやりたい。
あの寝不足丸出しの顔は、睡眠だけじゃなくメシもロクに食ってねぇだろう。
「あれ、阿近さん?
こんなところでどうしたんすか?買い物?」
「そんなところだ」
何を作ろうかと食材を眺めていると、後ろから修に声を掛けられた。
「珍しいっすね、阿近さんが外に居るなんて」
「別に良いだろ、んなこと」
「あ!ていうか聞きました!?」
「五月蝿ぇ」
「隊長格の恋愛禁止!流石にそれはやり過ぎだと思うんすよ」
お前は松本にゾッコンだからな。
松本からは相手にされてねぇ上に良いように使われてるが。
「阿近さんも千早さんとイチャイチャ出来なくなるんすよ?」
「ここでその名を出すんじゃねぇ。
つうか男がイチャイチャとか言うな、気色悪ぃ。
修こそ分かってんだろうな?もう二度と口を滑らすんじゃねぇぞ」
「隠すことに決めたんすね。
信用ないかもしれないっすけど、俺そこそこ口堅いんで!」
前科あんのにどう信用しろっつうんだよ、と内心で悪態をつく。
「ゲロッたら今度は、お前の人には言えないこと、バラすからな」