第13章 調査終了
「おい、生きてるか?」
「あこんだ」
「っ、おい」
幻の阿近が顔を覗き込んで心配してくれて。嬉しくて抱き着いた。
あれ、幻なのに感触ある。
石鹸みたいな優しい香りと、煙草の混ざった匂いがする。
いつもの阿近の匂いだ。
目の前に広がる阿近の胸板に顔を埋めて、思いきり息を吸い込んだ。
幸せだ。
「どれだけ飲ませたんだよ」
「あはは、何杯だったかな〜」
「動きにくいから離れろ」
「いや」
「千早も離れないことだし、あんたも飲んでく?
仕事一段落したんでしょ?」
「……離れないのは誰のせいだかな」
いつもの白衣姿の阿近。
日中に私が汚してしまった物ではなく、予備で持って来ていた物に着替えたのだろう。
血痕なんて一切着いていなかった。
「おい、飲みにくい。離れろ」
「いや」
「千早」
「いや。阿近の匂い好きだから離れないの」
「はぁ……じゃあこれやるからそこら辺で良い子にしてろ」
乱雑に脱いだ白衣を私に押し付けて来る。
阿近の匂いがする。
ホクホクと嬉しい気持ちになって白衣を抱き抱えると、阿近の隣にちょこんと腰を下ろした。
「あんたよく平気な顔してられるわね、見てるこっちが照れるわ」
「五月蝿ぇ」
「あたしちょっと水持って来るわね、流石に飲ませ過ぎたわ」
「あんなに幸せそうな顔で自分の服持ってるの見てよく平静で居られますね」
松本が席を外した瞬間に小さな声で話しかけて来た修。
野郎が囁いてもキモイだけだ。
「そんなに青臭くねぇよ」
「ですよね、阿近さん超淡白そうだし」
「さぁな」
「阿近ー、見て見て、おっきいの」
「そうだな」
「ちゃんと見たー?ふふ、ぶかぶか」
阿近の白衣を着ると、阿近の匂いに包まれる。
流石に阿近の服は少し大きいみたいで裾や袖が余ってしまう。
私が頑張って阿近に見せてるのに、阿近はチラッと一瞥しただけですぐに視線を戻してしまう。
せっかく着たのに。
「あら、なに?彼シャツ?」
「かれしゃつ?」
「はい、お水。
今現世で流行ってるのよ、彼氏の服を着る彼女が可愛いって。
ほら、男物って裾も長いし袖も余るでしょう?」
「うん。おっきいの」