第10章 特例任務
「これはほんの一部の能力でしかない。
こんなもので終わっていたら上に禁止されてなんかいないわ」
「禁止?」
そう。
私の卍解は力が強力過ぎるが故に上から使用を禁止されている。
厳密に言えば禁止ではなく制限なのだけど、使える場所や時間には厳しい制限を掛けられている。
「主な戦い方はこの枝を鞭のようにしならせて相手を叩くやり方。
でもこの “ 死の小林檎 ” はかなり強い毒を保有してるの。
実はもちろん、樹液や実から放たれる空気まで全て有毒。
枝が皮膚に触れればそこから毒が入り込むの、これ自体にそこまで強い毒性はないんだけど筋肉の動きを鈍くする作用がある。
そして1番厄介なのは実から放たれる空気。
林檎のような甘い香りがするけど、吸ったらダメよ。
徐々に徐々に身体の内側に入り込み、体内の臓器を壊死させていく。
時間経過と共にこの実は幹に実っていく、長期戦になればなる程広範囲にこの毒が撒き散らされていく。
故に使用出来る場所とその時間が厳しく設けられてるの」
説明を終えて、少しの間沈黙が流れる。
この話をしてすぐに言葉を発した人はあまり多くない。
情報量の多いせいで整理に時間が掛かるから。
「……治す始解と殺す卍解か。
どんな良薬も容量を誤れば毒になる。まぁ、的を得てるな」
「怖くないの?」
「それは卍解すればの話だろ、なんで千早を怖がる必要がある」
「ううん、なんでもないの」
今までと変わらず接してくれる様子に安心して、阿近の肩に頭を乗せる。
「万が一毒にかかっても解毒剤はあるから安心してね」
「安心出来るか」
「ふふ、まぁそうよね」
「さて、そろそろ戻るか。
変に勘繰られて騒がれても面倒だ」
煙草の火を消す阿近よりも先に立ち上がり、上から阿近の唇に口付けた。
当たり前だけど煙草の苦い味がする。
「いきなりだな、欲求不満か?」
「ばか。好きだなって思っただけ」
「知ってる。俺にはそれだけじゃ足りねぇっていい加減学習しろ」
「んっ……」
立ち上がった阿近が私の顎を持ち上げる。
期待して目を瞑れば、望んでいた通りの温もりが唇に触れる。
チュッチュッと軽いリップ音がして唇が、触れては離れてを繰り返す。