第10章 特例任務
「千早、一服してぇ。ちょっと付き合え」
「うん、良いよ。私は吸わないけど」
先を行く阿近を追い掛け、追いつく頃には浦原商店から少し離れた場所まで来ていた。
阿近が歩みを止めたのは河原のようなところ。
人の通る気配はなく、ただ静かに水が流れる音がする。
躊躇いなく地面に腰を下ろすと、煙草を咥えて火をつけた。
白い煙が空に向かって消えていく。
「あの場所居づらかった?喜助くん苦手?」
「……いや、そういうんじゃねぇ。
苦手も何も、あの人は俺の居て良い場所を造ってくれた人だからな。
その面では感謝してる」
「阿近ってそんなに前から技術開発局に居るんだね」
「一応発足時のメンバーだ」
技術開発局は、喜助くんが十二番隊の隊長に就任した際に造られた研究機関だと聞いている。
喜助くんが隊長になったのは私が引退してからだから、時期としては今から約100年程前だろうか。
「なぁ、千早。
言いたくねぇことは無理に言わす気はないが、1つ聞いても良いか?」
「なぁに?」
「千早の斬魄刀の能力ってなんだ?」
「っ……」
予想していなかった言葉に、思わず息が止まる。
まさか阿近から斬魄刀について聞かれるとは思っていなかった。
「斬魄刀の能力は無闇に人に明かさねぇ方が良いのは理解してる。
言いたくないことを無理に聞く気はねぇ。
だが千早のことで俺が知らない情報を他の誰かが知ってんのは、なんとなくモヤモヤする」
「……ごめんね。いつかは話さなきゃとは思ってたんだけど、中々勇気が出なくて。
斬魄刀の解放には2種類あるのは知っているよね?」
「始解と卍解か」
「そう。私の斬魄刀は名を加蜜列と呼ぶの。
始解の能力は簡単に言ってしまえば、浄化。
刀を刺したところからその対象を蝕んでいるものを吸収し、浄化する。
鬼道系に属する治癒能力の斬魄刀」
腰に携えている加蜜列の柄を撫でながら説明する。
そよそよと程良い強さで吹いてくれる風が、心地良い。
「卍解は、“ 死の小林檎(マンチニール) ” と名前を変える。
斬魄刀を地面に突き立て、そこから大きな木を生やす。
木には緑色の林檎に似た小さな実をつける、これは有毒で口にすれば徐々に体細胞を破壊し、対象を死に至らしめる」
「それが、千早の卍解か……?」