第10章 特例任務
「ごっ、ごめんなさ、夜一さん」
息も絶え絶えに謝ると夜一さんは解放してくれた。
乱れた衣服を軽く直し、喜助くんに向き直る。
「現状分かっているのはそれだけっス。
Xが男か女かもまだ。奴の特徴で分かっているのは黒いフードを目深にかぶっていること」
「なるほど……把握しました。
では今後は戦力の分散を避ける為、2人1組で行動をしましょう。
万が一があった場合、直ぐに敵を追尾出来るように」
想定していたよりも複雑な任務になりそうだ。
Xの正体も、能力も、目的もまだ何1つ分かっていない。
「そこで、アタシから千早サンに1つ提案があるんス」
「提案?」
「この件の主導権、アタシに譲っちゃくれませんか」
「何を考えているんですか?」
喜助くんの考えていることは昔からよく分からない。
私達の1歩も、2歩も上を常に考えている。
今回のことも何か他に意図があって私を指名したのではないか。
「やだなぁ、そんな疑い深い目で見ないで欲しいっスよん。
さっきは何も分かっていないと言いましたが、実は1人だけ怪しい人物が居るんス」
「!」
「あなたにはその調査を依頼したい。出来ればかなり近いところで。
そうなればあなたは指揮どころではなくなる。だからアタシがやった方が適任なんじゃないかと」
喜助くんの言葉を聞きつつ、その真意を考える。
「千早サンに調査して欲しいのはあるニンゲンっス。
黒崎サンと同じ学校に通う生徒だ、あなたにはそこの生徒に成りすまして調査をして欲しいんスよ」
「生徒って、流石に無理が……というより学校に居る人ならその方達に頼んだ方が」
「いえ、あなたが適任なんス」
「理由を聞いても?」
新たに別の人間を忍び込ませるよりも、元からそこに居る人間の方が遥かに怪しまれずに調査をすることが出来るだろう。
そこに敢えて私が加わる意図が分からない。
「それはあなたが1番弱そうだからっス」
「は?」
「そう怒んないでください。アタシは客観的に見た目の話をしてるだけっス。
実力を知らない相手なら、この中なら真っ先に千早サンを狙うでしょう。
井上サンに頼んでも良かったんですが、彼女は良くも悪くも黒崎サンと一緒に居る。
変に警戒されては面倒なんスよ」