第9章 本格始動
織羽を先に上げると、程なくして私も上がる。
今日はなんとなく早く帰りたい気分だった。
執務室に鍵を掛けようとすると後ろから声を掛けられた。
「もう上がりか?」
「日番谷隊長、お疲れ様です」
「あぁ」
私よりも少し下から掛けられる声。
日番谷隊長の手には一枚の書類が握られていて、明らかに仕事の要件だった。
「先程退勤したところで……書類ですか?」
「あぁ。十四番隊の印も必要だったから持って来たんだが、出直す」
「印だけならすぐなので押しますよ」
「良いのか?退勤してんのに」
「はい、ちょっとだけなので大丈夫です」
本来なら退勤後の仕事は不正残業になってしまう為宜しくない。
でも印鑑だけなら5秒も掛からないし、セーフだろう。
そう勝手に解釈して執務室内に戻った。
机から印鑑を持ち出し、書類の内容を確認すると判を押す。
「この隊が出来てから書類仕事が減った点では感謝してるが、代わりに十四番隊の印が必要な書類も増えたな」
「そうですね、本来なら隊長印一つで済みますから」
「総隊長は何か考えがあるんだろうが、俺には分からねぇ」
「私にも総隊長の考えは昔から分かりません。
未だになぜ十四番隊を創ったのかも疑問が残ってますから」
書類を見直してそのまま日番谷隊長に返した。
「悪い。助かった」
「いえ、このぐらい大したことありません。
その後書類は如何ですか?」
「五番隊の分がなくなって多少は早く上がれるようになったな。
まぁ、誰かさんが仕事しねぇのは変わらないから速度的にはあまり変わってないがな」
その後執務室を出て今度こそ鍵を掛ける。
この書類は重要案件の為隊長印を貰いに来たそうだ。
このあとも仕事が残っていると言った日番谷隊長と別れ、帰路につく。
*****
家に何もなかったことを思い出し、食料を買ってから部屋に戻った。
鍵を開けて中に入り、冷蔵庫に買った食材を入れていく。
「お疲れさん。今日は早ぇんだな」
「阿近!鍵締まってたからてっきり帰ったのかと」
「流石に俺の部屋じゃねぇからな。一応締めておいた」
そういえば玄関にまだ草履あったかも、と思い出す。