第1章 引退、そして始まり
「隊長、鍛錬場を貸して欲しいっていう人が居るんですけどどうします?」
「あ?鍛錬場?」
綾瀬川さんの背中から見えた隊長の姿は、懐かしいものだった。
「更木さん、お久しぶりです」
「あ?なんだ、千早じゃねぇか。久しぶりだな。
そういや復帰するっつってたか?」
「ええ、その予定です。
それでね、更木さん。鍛錬場を貸して欲しいんですけど、総隊長から何か聞いてませんか?」
「覚えてねぇな、だが構わねぇぜ。
その変わり俺の相手をしろよ」
久々に楽しい殺し合いが出来そうだ、と笑う。
「隊長のお知り合いですか?」
「あぁ、まぁな」
更木さんは私に真剣を渡し、自らも刀を抜いた。
その目はギラギラと輝いていてまるで血肉に飢えた獣のようだった。
「抜け、殺し合いだぁッ」
楽しそうに笑い、剣を振りかざす。
なんの前触れもないスタート。
振り下ろされる剣を咄嗟に避けると床に大きく刀傷が入った。
そうだ、ここは鍛錬場。
真剣で鍛錬をするようには出来ていない。
「ちょっと、更木さん!
こんなところで真剣なんて使ったら被害が、床が……っ!」
そんなことが頭を過ぎり、避けるのをやめて更木さんの剣を受け止める。
ズシリと重さが刀に伸し掛る。
鈍い音がして私の立っている床が抜けた。
なんとも重い一撃だ。
「更木さん、少し話を……!」
「五月蝿ぇッ」
その後もこちらの話には聞く耳を持たず、一方的に刃を振るう。
綾瀬川さんも、これが日常のことなのか特に気に止める素振りを見せない。
「っ……」
剣を受け止めるだけとはいえ、更木さんの力で振り下ろされる剣圧は尋常じゃない。
避ける度に床が壊れ、かと言って受け止めれば床が抜け落ち。
どんどん十一番隊の鍛錬場が悲惨な姿になっていく。
これって修理代出るのかな、もしかして自腹?
「あーっ、剣ちゃん!こんなところに居たぁ!」
「っ、女の子……ッッ!!」
不意に入口から聞こえた甲高い女の子の声に視線を送れば、鋭い痛みが身体に走った。
急いで視線を戻せば更木さんの持つ刀が血濡れているのが分かる。
斬られたのか、私。