【場地圭介】ペットショップの店員にパンツ見られました
第9章 私と圭介と不協和音と
私にここまで強く言われるとは思っていなかったのか、彰人はぐっと言葉を詰まらせたかと思うと「男を見る目がないな」なんて悪あがきにも等しい一言を私にプレゼントしてくれた。
ええ、本当。全くもってその通りよ。
「確かに私は男の人を見る目がないみたい」
「その通りだな」
「五年も好きだった人は器の小さいろくでなし」
「なッ!」
「その上その人が自分勝手で傲慢だってことにも私は気づけなかったの、五年も一緒にいたのに」
肩をすくめながら「信じられないよね」と言う私を、彰人はさながらワニのように大きな口を開けたまま立ち尽くしている。ふふん、いい気味だわ。
もうこれ以上、生産性のないやりとりはしなくてもいっか。早く帰ってもう寝たいし。そう思い彰人の隣を通りすぎようとしたとき、彼の腕が思い切り振り上げられた。
「こいつ……!」
──殴られる。そう思った私は反射的に彰人の手首を掴んで、本来なら曲がらない方向へと腕を曲げた。ミシシと骨の軋む嫌な音と、彼の呻き声が同時に私の耳へと届いてくる。
「ぁぐ……!」
「圭介は自分の思い通りにいかないからって、女の人に手をあげたりなんかしない」
「いだだだ!」
「圭介はいい男よ。私なんかには勿体ないくらいにね」
パッと手を離してあげると、私に捕まれて赤くなったところをさすりながら私との距離をとった彰人。ゴリラ女とか、馬鹿力とか、小学生が言いそうなほど陳腐な暴言を吐く彼にあきれを通り越してむしろ関心さえしてしまう。
いや、本当に私って男を見る目がなかったのね。恋は盲目ってよく言うけど、恋愛フィルターって偉大だわー。私の好きだった人と同一人物なのかさえ疑わしくなってきたわー。
あー私のこの五年間はなんだったんだろう。虚無感がスゴい。はあ、とため息をひとつついてから自分の家へと上がってスマホを確認する。すると圭介から「ちゃんと家ついたか?」と私の身を案じるメッセージが来ていて、少し嬉しくなる。
「家についたよー。オマケがいたけどね」