【場地圭介】ペットショップの店員にパンツ見られました
第9章 私と圭介と不協和音と
「ちゃんお疲れ」
「うん、お疲れ」
「今日仕事だって聞いたからよ、会えると思ってたんだワ」
それはいつ、誰から聞いたの? なんて訊かなくても十中八九、菅野さんからなんだろうなあ。千冬さんにも一虎にも、私のシフト事情を話したことは一度もないし。
喉元までせりあがってきた嫌味をグッと堪える。鼻の頭を赤くして佇んでいる彼は、本当に私に会いに来たのだろうか? もしかしたら──。
「ちゃん?」
「えっ」
「どっか調子悪いンか? ボーッとして」
「ううん、そんなことないよ」
「そーか? ならいいンだけどよ」
こんなところで野生の勘を働かせないでもらいたい。なんでそんなに目ざといのよ。
いつもなら心配してもらえたと喜んでいたはずなのに……そんなこともできなくなるくらい今の私には心の余裕がなかった。それどころか、早くこの場から去りたいとまで思ってしまう始末。
「久しぶりだな」
「そうね」
本当は昨日見かけたけれど。
「元気してたか?」
「うん」
全然元気じゃない。心が渇いた砂漠みたいなの。
「あんま連絡返せなくてワリィな」
「大丈夫だよ。私も忙しかったし」
でも菅野さんとは連絡取ってたんでしょ?
「でも顔見れてよかったワ」
「よく言うよ」
私より先に顔を見に来た人がいるのに。
「今から時間あったら飲みに行かね?」
「……ごめん、ちょっと疲れてて」
疲れたの。圭介と菅野さんが付き合ったら──って考えては何度も胸を苦しませてしまうことに。
「そっか。ンなら家まで送っ──」
「大丈夫」
「……ア?」
「一人で、帰れるから」
これ以上……一緒にいたら、あなたに嫌なことばかり言ってしまう。だからお願い、一人にさせて。
「なァ、やっぱ今日おかしいって。大丈夫かよ」
「大丈夫だって」
「仕事場でなんかあったンか?」
「最近いつもより仕事が忙しくてさ。それで疲れちゃってるだけだよ」
「……そっか。ま、一人でゆっくりする時間も必要だよな」
「お! 圭介、話がわかるじゃん。そうそう、今はそんな気分なのよ」