【場地圭介】ペットショップの店員にパンツ見られました
第9章 私と圭介と不協和音と
「あ……本当にいた」
お店を出てからキョロキョロと辺りを見渡せば、見慣れた黒髪の彼がガードパイプに寄りかかっているのが目に入った。まだ私には気づいていないようで、隣にいる誰かと話をしている。
誰だろう……シルエットからして女の人のようで、失礼だとは思いつつもジッとその人を見つめてしまう。ん? あれって──。
「菅野、さん?」
先ほどロッカールームで別れた菅野さんが圭介の隣に立っているのを見かけて、思わず息を飲む。腕と腕を絡め合っている二人は、美男美女でとってもお似合い。あんなにべったりくっついてる、やだなぁ……。
そんな風に思う資格なんて私にはないはずなのに、どんどん図々しくなる自分が嫌で嫌で仕方ない。
「私を待っててくれたんですかぁ?」
甘い菅野さんの声が聞こえてきて、びくりと肩を揺らす。嫌なんだったら見なければいいのに、ついそちらに目を向けてしまう私はどうしようもなく愚かだ。
「そうだって言ったら?」
「嘘でも嬉しいですぅ」
「嘘じゃねーよ」
馬鹿みたい。一人で浮かれて期待して。好きだって気持ちを言わないって決めたのは自分なのに、勝手に裏切られたような……傷つけられたような気持ちになるなんてお門違いもいいところだ。
うっすらともやかがっていく視界をどうすることもできず突っ立っていたら、不意に菅野さんとの視線が交じり合う。あっ、みたいな顔をした菅野さんに耐えきれなくなり踵を返してその場から去る。
次から次へと溢れる涙を拭うこともせず歩く私に、怪訝そうな視線が送られてくるのを肌で感じながらふらふらと歩く。どこかへ向かうわけでもなく、ただあの二人から距離を取りたくて宛もなく歩みを進める。
下ばかり見て歩いていたせいか、前から歩いてきた人とぶつかり反射的に謝罪の言葉を述べる。
「?」
落ち着いた声に名前を呼ばれて顔をあげれば、見知った顔が不思議そうに私を見下ろしていた。
知り合いに会った安心感からか、一気に涙が溢れ出てしまう。ついでに鼻水も出てきてしまい「うわ……」と抑揚のない声でドン引きされたのを感じとる。こんなときくらい優しく声かけてよお……!
「──イヌピー!」