【場地圭介】ペットショップの店員にパンツ見られました
第2章 私と場地さんとパンツと
蒸しタオルとかもうどうでもいいから、帰りたい……。お腹空いてたけど、もうどうでもいい……。そんな事を考えていると「おい」と場地さんに声をかけられた。けど返事するのもめんどくさくて、そのまま下を向き続ける。
「なんだ、その、悪かった」
「……」
「言い過ぎちまったよな?」
「……昨日、彼氏にいきなり振られちゃってさ」
「は?」
「女の子らしくなれるようにさ、頑張ってたんだよ? でもだめだったー」
あははっ。とできる限り明るく笑ったつもりだったけど、どうしても乾いた笑いになってしまう。知らない人にいきなりこんな話されても困るよね、ごめんね場地さん。でも……どうしても、誰かに聴いてもらいたかったの。ただ「そうか」って一言が欲しかっただけ。
……めんどくさい女だな、私。やっぱりこんなの振られて当然だわ。私が彼氏の立場だったとしたら、嫌だもん。
また霞んできた視界に嫌気がさして目を閉じる。足音がしたかと思うと、私の前に誰かが来た気配を感じる。──誰かって、場地さんしかいないのだけれど。
「見る目ねぇな、ソイツ」
「……は?」
「オマエも男を見る目がねぇ」
「……何であなたにそんなこと言われなきゃならないの」
「女らしいオマエが好きなやつじゃなくて、オマエらしいオマエが好きなやつと付き合え」
場地さんの言葉にまた、涙が溢れだす。そんなの……そんなのわかってる。わかってるけど、そのままの私を好きになってもらえる自信なんてない。ぎゅっと目を瞑ると、涙が頬を伝う感覚がした。──と同時に頬を滑る指の感覚。
うっすら目を開けると、場地さんが困ったように凛々しい眉毛を八の字にしながら涙をぬぐってくれているのが見えた。
ああ、優しい人なんだな。直感的に私はそう感じた。心がじんわりと暖かいものに満たされていく感覚に酔いしれる。
「お待たせしました!」
「おー千冬ぅ、コイツ全然泣き止まねぇ」
「場地さん……お客さんには敬語使ってください。それとこれ蒸しタオルです」
どうぞ、と手渡された蒸しタオルを目元に乗せる。あったかい……。蒸しタオルも、場地さんも、千冬さんも、あったかい。