【場地圭介】ペットショップの店員にパンツ見られました
第2章 私と場地さんとパンツと
未だにふるふると震える拳を抑え込──めなくて思わず左ストレートを場地さんにかます。仏じゃないので私の顔は一度までよ! ほんとふっざけんな! 驚くほど呆気なく場地さんに捕まれた左手に力を入れるが、ビクともしない。
くっそ、利き手じゃない方だから甘かった! きゅるきゅるんお目めのトカゲさんを乗せている右手を一瞥してから、場地さんを睨む。もう鬼のような形相で。
「おー、こわ」
「微塵も思ってないくせに……!」
「千冬ぅ、このオネーサンめっちゃキョーボーな!」
「いや……場地さんそれ以上はあんまり口開かない方がいいかと……」
「なんで?」
「デリカシーがないからよっ!」
私の大きな叫び声が店内に響き渡る。キョトンとする場地さんと、苦笑いする千冬さん。ものの五分くらいの出来事だったけと、私の場地さんに対する印象は最悪で、二人から見た私の印象もきっと最悪だろう。
昨日の今日で精神ぐずぐずだから、全然猫被れないわ。おもいっきり素の私しか出せない。でもいいや、どうせもう二度とこの二人会うこともないだろうし。
「本当にすいません!」
「……」
「ほら! 場地さんも謝ってください!」
「ア? あー……スンマセン」
「……うぅ」
「え?」
「は?」
ポロポロと泣き出した私に言葉を無くした二人はお互いの顔を見合わせて、またこちらを見た。見るな、見るな見るな見るな。見せもんじゃない。そう思うけれど一度溢れだした涙は止まることを知らず、次々と私の服へシミを作っていく。
千冬さんは私の手からそっとトカゲさんを受け取り、ゲージへと戻してくれる。涙を拭おうと袖で目元を擦る──と、その腕を誰かに止められた。もう顔を上げる元気もない。
「あー……そんな擦ったら腫れんぞ」
「……腫れてもいい、どうせ明日も休みだし」
「よくねーだろ、女なんだからもっと自分の体大切にしろ。千冬、タオル蒸してやれ」
「はい!」
こっちこい、と腕を引かれてつれていかれたのは裏にある休憩室。そこへ行くと適当な椅子に座らされた。居心地の悪い沈黙が続くが、喋る元気もない私は俯いたまま自分の足先を見つめるほかない。