【場地圭介】ペットショップの店員にパンツ見られました
第2章 私と場地さんとパンツと
「大丈夫ですか?」
「……はい、お騒がせしてすいません」
「いえ、こちらこそすいません」
「ソイツ今、ジョーチョが不安定みてぇだわ」
「場地さん、敬語! あとできればちょっと静かに……」
「……ふっ、あはは!」
急に笑いだした私を見て、二人は不思議そうにこちらを向いた。目元はタオルで見えないだろうけど、大きな笑い声を響かす私に二人もどこか安心した様子。
あーなんか久々にこんな笑ったかもしれない。私の悩みなんてちっぽけなものなのかも、そう思わしてくれるくらい豪気な場地さんに今日は救われたな。はー! もう振られたとかどうでもいいや! 男のすねかじってないと生きられない女じゃないのよ、こっちは。逞しく一人で生きてやろうじゃありませんか!
「タオルありがとうございます」
「いえ」
「あ……ファンデついちゃった」
「これくらい大丈夫ですよ」
「すいません……」
「大丈夫だつってんだろ? 千冬が洗ってくれっから、謝んな」
「あははっ、そこは俺が洗うって言わないのね」
目元からタオルを外して笑いかけると、場地さんは、ぱちくりと瞬きをひとつしてからニッと口の端をあげて、子どものように笑った。口から覗く獣のように鋭い八重歯にちょっと驚いたが、それも彼によく似合っている。と、思う。
時間にしたらほんの少しだけれど、彼を見つめているといきなり頭を撫でられた。さっきされたのとは違って、子どもをあやすように、優しく、ぽんぽんと私の頭の上を彼の手が動く。
「オネーサン、やっぱ笑ってる方がかわいーワ」
「へ?」
「クソみたいな男はさっさと忘れちまえ」
「……ふふ、そうね。クソとまでは思っていないけど」
「はあ? オネーサンの良さわかんねぇとかクソだろ」
「オネーサンの良さをわかる人はなかなかいないだろうなあ」
「なんで? オネーサン、真っ直ぐだし、嫌なことは嫌って言えるし、喧嘩つえーし、いいとこばっかじゃん」
予想外の言葉に思わず苦笑い。「喧嘩強いのいいことなの?」って聞き返したら「自分の身を自分で守れるってことだから、いいことだろ」と言われて変に納得してしまった。彼に言われるとなんだか説得力がある。……喧嘩が強いのはいいこと、か。確かにそういう考え方もできるよね。