【場地圭介】ペットショップの店員にパンツ見られました
第8章 私と圭介と初日の出ツーリングと
「バカだな」
「ア?」
「誰だって間違ってばっかだよ。私だってそう」
男の顔面に回し蹴りいれた挙げ句、誰かさんにパンツ見られたし。なんて死んだ魚にも失礼なほど光のない目で呟くと「お、おう……」と珍しく私の様子をうかがうような声色で返事をした圭介に、ふっと乾いた笑いを漏らす。
「全ての物事は表裏一体なんだよ」
「難しいことはわかんねーよ」
「最初さ、圭介にパンツ見られてこいつぶっ飛ばしてぇって思ってたけど」
「俺、そんな風に思われてたンか?」
「うん」
「即答」
「けどさ、それがなかったら今こうやって一緒にいることはなかっただろうから。今となってはあの出来事もあってよかったなーって思ってるよ」
にひっとだらしなく笑いながらピースをした私を未だ納得いかない表情で見つめる圭介の目は、迷っているかのようにゆらゆらと揺れていた。
「じゃあさ」
「うん」
「こんな笑い話にできないくらいの罪を犯しても、ンなこと言えんの?」
「んー……例えば、例えばさ? 私が誰かに命を奪われたとするじゃん」
私の言葉に圭介はグッと息を飲んだ。それを横目で見ながら、私は何も見なかったかのように言葉を繋いでいく。
「そしたら圭介は悲しんでくれる?」
「当たり前だろ!」
「でもさ、その出来事を私のこと全然知らないアメリカに住んでいる人が聞いたらどう思う?」
「それは……」
「可哀想だと思ってくれるかもしれないけれどさ。やっぱり現実味がなくって、そんなことがあったんだなって他人事のように捉えると思うんだよね」
「……」
「それにもし私が昔、誰かの命を奪っていたとしたら? その被害者家族はきっと喜ぶだろうね、仇がとれたってさ」
「ちゃん……」
「つまり何が言いたいかって言うと」
──圭介はもう十分すぎるほど悩んできたんじゃないかな?
私がそう言葉をかけたと同時に圭介のキレイな顔がくしゃりと歪んだ。まるで耐えられない感情を押さえ込もうとしているみたいに。
泣き出す前の子どもみたい。そう思って彼の名前を呼ぼうとしたが、それは不発に終わった。何かにすがるように……勢いよく抱き締められたから。