【場地圭介】ペットショップの店員にパンツ見られました
第8章 私と圭介と初日の出ツーリングと
「食べたら行くわよ」
「おー」
「……何でそんなに嬉しそうなの」
「何でだと思う?」
「さあね。ちゃんと一緒にいられるからかなー」
さっきのやり取りで少しひねくれてしまった私の心をそのままに吐き出せば、あろうことか「当たり」と言葉を返されて思わず耳を疑う。
そんなまさかと圭介の顔を見やれば、頬杖を付きながら愛しいものでも見るかのような優しい眼差し。からかわれてるんだって頭ではわかっているのに、胸の内から湧いてくるこの厄介な感情に押し潰されてしまいそう。
そんな優しい声で囁かないで。そんな目で私を見ないで。そんな顔を私に向けないで。──そんな風に私を惑わせないで。
「イケメンは言うこと違うわね」
「ア? 思ったこと言っただけだろーが」
「そういうのは本当に好きな子に言ってあげなよ。喜ぶよ、きっと」
「見つかったらな。っし、食ったから行くか」
「はーい」
お腹がいっぱいすぎて飲めなかったミルクティーを懐にしまいこんで、外に出た。やっと温まった体を冷たい風から守るように肩をすくめて、身震いする。今からバイクに乗るっていうのに、もうすでに心が折れそう。事故しないように気を付けなきゃ。はぁ、と手に息を当てて気休め程度のぬくもりを得る。
グローブをはめて圭介のゴキにまたがってから私の隣でシャドウのエンジンをかけている圭介を確認。彼に習うようにして私もバイクのエンジンをかけた。ヘルメット越しにぶつかった視線が「行くぞ」と言っていたので軽く頷いてから暗闇へと走り出す。
信号で止まっては「凍える」「さみぃ」「誰ツーリングしよとか言ったやつ」「ちゃんな」「それな」と他愛のない話をしながら海浜公園へと近づくにつれ、世界中のインクをぶちまけたような空もほのかに白んできたようにも見える。夜明けも近い。
「ついた!」
「自販機で何かあったかい飲み物買おうぜ」
「そうね。コンビニで買ったやつ冷たくなっちゃったし」
「コレはあとで温め直して飲むか」
「うん。邪魔だからサイドバックに入れとこっと」