【場地圭介】ペットショップの店員にパンツ見られました
第7章 私と場地さんと年越しと
駐輪場に近づくにつれて人がだいぶと減ってきたので、大きくため息を吐く。今回もなんとか逃げきれたぁ。っていうか新年早々、気苦労が半端ないわ。もうここまで来たら手も繋いでいなくてもいっか……ちょっと寂しいけど、なんて思いながら手を離す。──つもりだったんだけど、離した手は何故か場地さんにもう一度掴まれてしまった。
「なあ」
「何? っていうか場地さん、さっきはありがとね。助かっ──」
「もっ回」
「え?」
「もっ回、呼んで」
いったい何を? そう思って頭の中で考えを巡らせる。あ、もしかして名前かな? 先ほどその場を乗りきるためだけに、場地さんのことを名前で呼んだのを思い出す。……間違っていたら恥ずかしい、けど、うん。意を決して、小さな声で「圭介さん?」と呼んでみる。するとどうしたことでしょう。無反応なんだけどッ!
え? 外した? ここでまさかの山勘外した!? は、恥ずかしすぎるんだですけどぉ……! 穴があったら入りたい……何なら今すぐにでも穴掘りたい……。場地さんに合わせる顔が無さすぎて、片手で目元を覆うように隠す。馬鹿にするでもなく、何をするでもなく、未だに無反応な場地さんに不安を覚えて指と指の間から彼の様子を盗み見る。
「……へ?」
指の隙間から見えたのは、頬を少し上気させて、嬉しそうに目を輝かせる場地さんの姿。いったい何事だろうかと目元の手を下ろせば「やっぱそれだ!」と急に叫びだすので、思わずびくりと肩を震わせる。急に大きな声出さないでほしい、普通にびっくりするから。
「どうしたの? 急に大きな声出して」
「今日──あ、昨日からか。なんかずっとモヤモヤしててよ」
「うん」
「それが何でかやっとわかったワ」
「ほう?」
「名前だよ、名前!」
……名前? 場地さんの中では何か納得できることがあったらしいけど、私にはさっぱりわからない。というか場地さんの考えていることは毎度ほぼわからないに等しいから、いつも通りと言えばいつも通りなんだけれど。場地さんて表情は豊かなんだけど、本心は読み取りにくいのよねえ。