【場地圭介】ペットショップの店員にパンツ見られました
第7章 私と場地さんと年越しと
あっかんべーと舌を出してからかってみる。今までの経験則から察するに、多分「はあ?」みたいな態度で言い返してくるんだろうなぁ、と思いながらさんの出方をうかがう。するとそんな私の予想に反して、場地さんはムッと唇を尖らせて「一個くらいいいじゃねーか」と拗ねた小さな子どものように、言葉を吐き出した。まさかそんな反応をされるとは思っていなかったので、パチパチと数回瞬きをしてからワンテンポ遅れて場地さんの額に手のひらを当てる。
……うん、熱はないみたいだね。よかった。そんなこと思っていると「熱ないワ」とこれまたムッとした表情の場地さんにたしなめられてしまった。バレたか、てへぺろ。
「拗ねるなんて珍しいね」
「拗ねてねーし」
「はいはい。ほら、一個あげるから機嫌直して」
千冬さんの持っている紙袋からベビーカステラを一個取り出し、場地さんへと差し出す。私の方へと手を伸ばしてきてくれたのを見て、今度は拗ねなくてよかったぁ、なんてひと安心していたのもつかの間。勢いよく手首を掴まれたかと思えば大きく開いた場地さんの口がベビーカステラを食べた。──私の指も一緒に。
冷たく乾いた唇とは対照的に、生暖かくぬるりとした感触が、這うようにして私の指をなぞる。ぞわりと肌が粟立ち、まるでそういうコトをしているかのような気分へと攻め立てられて……舐められている、そう気づくまでにずいぶんと時間を要した気がした。
「──ん」
ちゅっとわざとらしく音を立てて私の指から離れていった場地さんは、満足そうな顔で口の端をぺろりと舐めた。えっちだな、けしからん。少し濡れそぼった手をジッと見つめる。
「……」
「あ、おい! ! 俺の服で手ぇ拭いてんじゃねぇよ!」
「そこに一虎がいたから」
「自分の服で拭けよな!」
「嫌よ、汚れるでしょ」
「このアマ……!」
「私を呼び捨てにする罰よ」
「まだ根に持ってんのかよ!」
心が狭い! 器が小さい! などと文句を連ねている一虎を無視して甘酒に口をつける。少しぬるくなってしまったけれど、何かと一緒に言葉を飲み込まないと、不意に「好き」って言ってしまいそうでちょっと怖かった。