【場地圭介】ペットショップの店員にパンツ見られました
第2章 私と場地さんとパンツと
「水色パンツのオネーサンじゃねーか!」
──と。
鳩が豆鉄砲を食らったときの気持ちが今ならよくわかる。開いた口が塞がらないとはこの事か。ようやく絞り出した声は「……は?」とカスカスで聞くに耐えれないものだった。
「ア? 昨日、水色のパンツ履いてたろ? レースのやつ」
ショートした頭で今朝脱ぎ捨てた下着を思い出す。……うん、確かに水色のレースついたショーツだったな。っていや、問題はそこじゃない! なんでこの人、私が昨日履いてた下着の色知ってんの!? ストーカーか!? オープンなストーカーか!?
目を開いたまま固まる私を見て怪訝に思ったのか「おーい」と私の目の前で手を振られてハッと我に帰る。
「な、なんでお兄さんは私のパンツの色知ってるんですか?」
「なんでって、見たからに決まっ──ン"!?」
お兄さんの言葉が最後まで紡がれることはなかった。何故かって? 私がお兄さんの頬を片手でむぎゅっとしたからです、むぎゅっと。タコのように唇を突き出したような顔をしているお兄さんは「いへーよ」と何か言っているけど、すいませんね。チョット何言ッテルカワカンナイデス。
ぺしぺしと私の手を叩いて反抗してくる姿は、どことなく猫っぽい気もする。仕方なく手を離してあげれば自分のほっぺを擦りながら、いてー……とぼやいている。私からしたら自業自得ですけどね!
「力つぇーな。ゴリラかよ」
「お兄さん、デリカシーって言葉知ってます?」
「デリカシー? 菓子のデリバリーかなんかか?」
「マジか」
嘘でしょ? 脳内赤ちゃんなの? と呟いた私の声は、彼の「千冬ぅ!」と誰かを呼ぶ声でかき消された。そして千冬誰やねん。
少しすると黒髪ツーブロックで猫目のお兄さんがひょっこりと顔を覗かせた。可愛らしい名前の通り可愛らしい顔をした彼が、どうやら千冬さんのようだ。
「何スか、場地さん」
「デリカシーって何?」
「細かな気遣いのことですよ」
「なーんだ、そういうことか! 最初っからそう言えよな!」