【場地圭介】ペットショップの店員にパンツ見られました
第5章 私と場地さんとクリスマスイブと
鼠径部などの施術も順調に進み、次は背中と首──と思ったところで手の動きを止める。お腹の方にもあったけれど、背中の方にも大きな刺し傷らしきものがあり、どうしても目線がそちらばかりに行ってしまう。
「どーした?」
「あ……うん。ここの傷跡触っても大丈夫かな、と思って」
「ああ。ダイジョーブだ、ガッといってくれ」
「いや、そんなガッとはしないけどね。んじゃいくよー」
少し膨れあがった肌の感触に、痛かったんだろうなぁとありきたりで他人事のような感想しかでないけれど。きっと私なんかでは想像できないような過去があったんだろうな。
急に静かになった場地さんを不思議に思いながら、私から何か言葉を発するわけでもなく、少しの間沈黙が続く。場地さんと一緒にいるときって、切れることなくナチュラルに会話が続いてたんだな。無言が嫌だとは思わないけれど、少しだけ違和感を感じてしまう。
「……何も訊かねェの?」
「訊いてほしかったの?」
「そーじゃねぇけど。気になンだろ、普通」
「私、場地さんに普通の人だと思われてたんだ。ヤッター」
こんなに感情のこもっていないやったーはあるのか、というくらい無感情な感嘆詞。数秒遅れて場地さんの肩が少し震えだしたので、きっと笑っているのだろう。ちょっとすると震えは止まり、その代わりに「はぁー」と大きなため息が聞こえてきた。
「よく考えたらちゃんフツーじゃなかったわ」
「そうでしょ。こんな美女なかなかいないわよ」
「ホントホント。心がキレーだよな」
「褒めつつディスってない? 顔は? ねえ顔は?」
「キレーキレー」
「棒読みワロタ」
訊いてもいいのか少し悩んだけど、言いたくなったら言うでしょ。そう自分に言い聞かせる。何でもかんでも土足で踏み込んでいくものじゃないわよね。かろうじて聞き取れるような小さい声で「ありがと」と呟いた場地さんに思わず口元が緩む。可愛いところもあるもんだ。
そのあと世間話をぽつぽつと話していたが、急に会話が途切れた。不思議に思って少しだけ顔を覗き込むと、小さく寝息を立てながら心地良さそうに眠りにつく場地さん。いつもより幼く見えるその顔にほっこりしながら自分の仕事を再開する。