【場地圭介】ペットショップの店員にパンツ見られました
第4章 私と場地さんと元カレと
「俺、バカだからあんまうまく言えねェけど。まぁ腹立ったンだよな」
「うん?」
「アイツが振ったあとちゃんがどんな気持ちでいたとか、泣いてたとか、知んねーのかと思ったらムカついた」
「……ふはっ」
「ア? なに笑ってンだよ」
「だって場地さん、私の代わりに怒ってくれたってことでしょ? ありがと」
嬉しい。と一言付け加えれば彼は一瞬きょとんとと目を丸くしていたが、すぐにいつもの笑顔を咲かせて「おう!」と返事をしてくれた。それが無性に嬉しくて、自然と笑みが溢れる。やっぱりこの人は、人をたらしこむのがうまいなあ。裏表を作れなさそうなほど真っ直ぐな言葉と笑顔は、誰しもを魅了する力がある。
「あー、それにしても明日どんな顔して仕事場行けばいいのかな」
「嘘ついてないから適当に誤魔化せばよくね? 彼氏かって訊かれたときも俺の名前答えただけだしな!」
「……確かに?」
「だろ? いやーそれにしても笑ったワ。あの顔ケッサク」
「わかる! 私もスカッとした!」
スゴく晴れやかな、胸の支えかとれたような、そんな気分の私はこれから前を向いて進んで行けるだろう。うん、もう元カレのことなんかどうでもいいや! 明日仕事場で菅野さんに会うのはちょっと億劫だけれど……それも最初だけでしょ、きっと。少ししたら落ち着くはず。
「それじゃ帰──」
「ちょっと動くな」
帰るね。と紡がれるはずだった言葉は場地さんの言葉に被せられ、ふぁさりと私の顔の横に黒いカーテンが降りてくる。それがゴムを外して下りてきた場地さんの髪だと気づくのに少し時間がかかった。のと同時に、不意に近づいてきた場地さんの整った顔に思わずハッと息を飲む。
えっ? は、ちょっと待って……。彼の吐息が感じられるほど近くて、思わず顔に熱が集まってくるのを感じて口がむず痒い。
「俺らさ」
「へ?」
「ぜってーキスしてるって思われてンぞ」
「は……」
ゆっくりと顔が離れていく場地さんに「顔真っ赤」と言われ、恥ずかしくて腕で自分の口元を隠す。中の反応が気になるけど……怖くて見られないし、今なら死ねる気がする。死因は心臓の働きすぎ。
ドッドッドッと激しく脈打つ音が耳の横で聞こえてきて、これが場地さんまで聞こえているんじゃないかと不安になる。こんなの聞かれたらもう顔合わせられない……。