【場地圭介】ペットショップの店員にパンツ見られました
第4章 私と場地さんと元カレと
「彼氏にするなら千冬さんみたいな人がいい」
「へっ!?」
「私のこと気色悪いって言わなくって、ゴリラって言わなくって、ゴキブリに乗ってない人がいい」
「ア"? 喧嘩売ってンのか?」
「あと、あに濁点つかない人」
そっぽを向きながらしれっと言葉を発する私を見て、場地さんの口元がひくつくのがわかる。誰とは言ってないじゃないですか、誰とは。そんな目くじらたてないでくださいよーなんて思いながら、あっかんべーと舌を突き出せば明らかにイラついた場地さんの感情の矛先は千冬さんに向いてしまった。
「千冬ぅ、何オマエも顔赤くしてンの? 小学生か」
八つ当たりか。
「男のひがみは醜いよ、場地さん」
「よし、一回表出ろ」
「望むところです」
ゴキゴキ指の間接をならして気合い十分の私たちに、苦笑いの千冬さん。その綺麗な顔面に赤い紅葉を作ってやろうじゃありませんか。バチバチと見えない火花を散らすこの空気に場違いなほど清らかな──リン、と鈴の音が辺りに響いてそちらに顔を向ける。
そこにいたのは目元の涙ぼくろと、黒と金色のツートンカラーが特徴的な髪の毛をした……男性? かな。中性的な顔立ちをした美人が奥の控え室から出てきた様子。
「あ」
私と目が合ったその人は──。
「パンツの女じゃん」
と言い放った。…予想だにしないことを言われ処理能力が落ちた私の頭は、彼の言っていることをなかなか理解できないでいる。というか理解したくない。
「……場地さん」
「ア?」
「なんでパンツのこと言いふらすんですか!」
「別に減るもんじゃねーだろ」
「減る! 私のおしとやか度が減るッ!」
「いや、元々ゼロ──っぶね! いきなり殴んな!」
「そんなのわかってるわよ! マイナスになったらどうするの!」
「そこは認めんだ」
「一虎くん、ちょっと黙っててください」
ツートンヘアの彼がおかしそうに首を傾げるたびにリン、となる鈴の音がなんだか憎らしい。おしとやかじゃない自覚ぐらいあるわよ、バーーーカ!
ふんふんと鼻息を荒くする私を千冬さんがまぁまぁと宥めてくれる。私の癒しはこの人と動物たちだけだ。口をへの口に曲げてむくれている私に「奥で一緒にチョコレート食べましょ? ね?」と優しく声をかけてくれる千冬さんにスパダリを感じられずにはいられない。