【場地圭介】ペットショップの店員にパンツ見られました
第1章 Prolog
沈んだ顔の私とは真反対、にこにこと人の良さそうな笑みを浮かべたお兄さんが二人、私の前に立っている。そういうことか、下心あるやつか。あー本当にツイてないわね。今日はとことんツイてない。神様がいるならマジ恨むし、八つ当たりするわ。
「こんばんは」
「コンバンハ」
「お姉さん可愛いから思わず声かけちゃった」
「今から飲むの? 美味しいお酒の店知ってるから一緒に行かない?」
「連れが家で待ってるので。じゃ」
興味ありません。ってオーラを全面に出しながら間を通りすぎようとしたら、右腕を掴まれて顔をしかめる。意外と強く握ってくるので、少しだけ右腕が痛い。
あーもう、ほんとなんなの? この世はクソゲーなの? まじ空気読めよ、空気は吸うもんだとか思ってんじゃないわよ。段々と募るイライラに思わず目付きも鋭くなる。
「そんな怖い顔しないでよ」
「この手を離してくれたら怖い顔しないで済むんだけど」
「離したらお姉さん行っちゃうでしょ?」
「俺らも相手してほしいんだよね」
「相手──してほしいの?」
にこり。と笑顔を貼り付けたまま男の人たちの方へ振り返ると、彼らはお互い目を見合わせて薄く笑ったご様子。なに? イケそうだな、ってか? 夢を見るのは、寝ているときだけにしておいてもらいたいわね。
私の右腕を掴んでいた手がスッと肩に回されたのを見計らって、勢いよく払いのける。そして目を見開いて驚いている男の顔を、渾身の力で殴り飛ばした。もちろんグーで。
メゴッ! と普段は耳にしないような痛々しい音と共に、一人の男がよろけた。その顔からは鼻血が垂れ流れているけど、そんなことはどうでもいい。続けて勢いよく脚を上げ、その側頭部に回し蹴りで踵を叩きつける。
まるでスローモーションを見ているかのように、男がゆっくりと地面へ倒れていったのを冷めた目で見届ける。──次はお前だ、そんな意味も込めてもう一人の男を睨みあげると「ひっ!」と小さな悲鳴が上がる。ほんっっっとにさあ、私は今機嫌が悪いの。最っっっ高に悪いの。