【場地圭介】ペットショップの店員にパンツ見られました
第1章 Prolog
「別れてほしい」
「……は?」
いつもの平日より少し賑やかな金曜日の夜。私は五年付き合っていた彼氏にいきなり別れを告げられた。とりあえずこの状況をビールと一緒に飲み込もうとしたけれど、ビールの味がまっっったくわからないくらいには動揺している。
──正直なところ、このまま結婚するんだろうなー。ってなんとなく思っていたので頭を鈍器で殴られた気分。落ち着け。とりあえず相手の話をよく聴こうじゃないか、よーーーく。
「とりあえず、なんで別れたいと思ったの?」
「他に気になる子がいるんだ」
フルボッコだドン!
ちょっと待って全然落ち着けなかったわ。もうなんか頭痛い。いや、隠し事して二股なりなんなりされるよりはずっとマシだけど……マシだけど! さすがに気持ちは追い付かないわ。
「そう、なんだ」
「には悪いと思ってる」
「……ちゃんと話してくれてありがとね」
「ごめん……」
謝罪の言葉をぽつりと残して席を立っていった彼を見送ったところで、ぽろぽろと涙が溢れ出てきた。目の前から彼がいなくなって、やっと実感沸いてきた……私、本当に振られたんだ。毅然と振る舞えていたかな? カッコ悪いとこ見せたくなくって、見栄張っちゃったよ。はは……。
せっかくの楽しい花金もこれじゃあ楽しめそうもない。そう思って私も早々に、彼が私と別れるために予約してくれたこのカフェバーを後にすることにした。正直、もうここには二度ときたくないな。来たら即泣いて即メイク崩れちゃうわ。
ただいま夜の九時半。はー……家に帰って一人で飲み直そうかな。今日はガンガンお酒飲みたい気分だし。目元をごしごし擦って気合いを入れ直し、近くのコンビニへと歩みを進める。……やけに楽しそうな人ばかりが目につくのは何でだろう。
「つまみも買お」
がさがさとカゴの中へ目についたものを入れていく。くそっ、アルコール度数高めのガツンとしたやつ飲まなきゃやってらんないわ。
レジで支払いを済ませてのろのろと外に出る。私の心に反して雲ひとつない月夜にすら憎らしくなってくる。
「……飲みながら帰ろうかな」
あんまりお行儀はよくないけど。と、心の中で呟いてから袋を漁っていると私の足元に影が落ちた。何かと思って顔を上げて、すぐさま後悔する。