【場地圭介】ペットショップの店員にパンツ見られました
第17章 【番外編③】私と圭介とハジメテと
「圭介、私帰りたい」
「話がある」
「私にはありませーん」
「……頼む」
いつになく真剣な表情で言われてしまい、うっと言葉に詰まる。ズルいでしょ、そんな言い方。これ以上の幸せが逃げることはないんじゃないかと思うくらいのため息をはきながら「わかった」と小さく嫌々ながら呟くと掴まれた手首はそのままに、そこらへんに停まっていたタクシーへと連れていかれた。
タクシーに乗ったからといって特に会話があるわけでもなく、しっかりと握られた手首だけがじんじんと熱を持ったように熱い。あーいっそのこと、このまま溶けていなくなりたい気分ね。無理だけど。ふぅ、と息をついた私の様子を伺うように圭介がこちらへ視線だけを寄越した。
少ししてタクシーは止まり、当たり前のようにタクシー代を払ってくれた圭介の後ろについて彼の家へと向かう。やっと帰ってきた主を出迎えるようにパチパチと部屋の電気をつければ「テキトーに座ってろ」とソファに促されたので端の方に小さくなって座る。膝を抱き抱えるように座りながら、体育館で出番を待つ子どものように。
「ビールでいいか?」
「うん、ありがと」
とりあえず勢いよくプルタブを開けて、勢いよくビールを喉に流し込む。手っ取り早く酔えたら圭介の話を上の空で聞けるかもしれないし。相手に失礼ってわかってるけど、好きな人にまで鋼のメンタルを持ち合わせてるわけじゃないのよ、私。
「……ごめん」
「へあ!?」
そんなことを思っていたら不意打ちの謝罪に思わず三分で地球から退散する某全身タイツヒーローのような声が出てしまったが、圭介はそこまで気が回っていないようで正直助かった。
……何に対しての謝罪なのかな。
「さっきイヌピーくんに言われて気づいた。イヌピーくんとちゃんが仲良くしてたら腹立つのと一緒で、ちゃんだって嫌な気持ちになるよなって」
私の隣に腰を下ろした圭介は俯きながら自分の気持ちをゆっくりと吐き出しているようで、長い髪に隠れたその顔からはあまり表情が読みとれないのが気になって仕方がない。彼は今、どんな顔をしているのだろうか。