【場地圭介】ペットショップの店員にパンツ見られました
第3章 私と場地さんと飲み会と
ごめん、場地さん……ご飯代全部出すから今日は私の愚痴に付き合って……。眉間にシワを寄せて嫌そうな顔をしながらも「しょーがねぇなあ」って話に付き合ってくれるだろう彼を想像して心を落ち着かせる。
「末長くお幸せにね」
「ありがとうございますぅ」
場地さんが「千冬ぅ」って語尾伸ばして呼んでるのは可愛いのに、どうして彼女の「ありがとうございますぅ」はこんなにイラッとするのだろうか。
「私、このあと予定があるからもう帰るわね」
「さんお疲れさまでしたぁ」
「あとは宜しくお願いね」
制服から私服に着替えて仕事場を出ると耳に響く、渋いバイクの排気音が聞こえてきた。ふ、とそちらを見るとバイクから降りたばっかであろう場地さんが「よっ」と片手を上げて私の方を見ている。うわーめっちゃバイク似合うなこの人。今日は髪の毛を結んでいないらしく、メットを外した反動で綺麗な黒髪が風に乗って靡いている。そのキューティクルを私にわけてくれ、切実に。髪の毛だけ女子力高すぎだわ。
「ンだよ。見すぎじゃね?」
「髪の毛サラツヤ羨ましいです」
「そぉかー? 何もしてねーけど」
「は? マジで、はあ?」
「ガン飛ばすなって」
「てかこのバイク、スズキの何です?」
「スズキ・GSX400E、ゴキだ」
「ああ、ゴキブリのやつ」
「その言い方止めろ。ガキの頃はこれの250乗ってたんだよ」
「250は車検ないから最初に乗るのにいいですよね」
「一番最初のゴキは捨ててあったのを自分で直して乗ってたんだよなー」
「え? 自分でレストアしたんです? すご」
ほーと感嘆の声を漏らす私に、場地さんは照れ半分、自慢気半分と言った表情で首のところを掻いている。「乗ってもいいですか?」と訊いた私に予備のメットを渡してくれたのを見ると、最初から私をバイクに乗せて連れていってくれるようだった。
ルンルンでメットを被ってゴキのシートに座った──瞬間「おい」と場地さんから声をかけられる。不思議に思って場地さんの方を見ると、片眉をつりあげて怪訝そうな顔をしている。