【場地圭介】ペットショップの店員にパンツ見られました
第16章 【番外編②】私と圭介と金髪美女と
「……帰ろ、かな」
今日は今度のデートに着ていく服を見たかったのだけれど、そんな気分ではなくなってしまったので、おとなしく家へ帰ることにする。気分転換でもしようとイヤホンをつけて、お気に入りのプレイリストを漁っていくと目に止まったのは──失恋の歌。
思わず漏れた自嘲気味な声は、私の陰鬱さを物語っているようだった。
「何かおつまみでも買うかあ」
ここでお高いスイーツとか言わない辺り、もう女子として終わっているんだろうなぁ、私って。でもお洒落で可愛いケーキより、アタリメ噛みながら一杯やる方が好きなんだもん。
「あとでドラケンくんに愚痴でも聞いてもらお」
イヌピーに言ったら「場地に限ってそんなわけねえ」って言うか「コロス」の究極の二択になりそうだから、最近の相談相手はもっぱらドラケンくん。ごめんね、そしてありがとう。これからも贔屓にさせてもらいます。
「……って昼間は思っていたんだけどなあ」
憂鬱な昼間は過ぎ去り、絵の具で塗りつぶしたような黒が空を覆う午後二十二時。圭介からの「今、電話できる?」という短いメッセージの画面を見つめながら、眉間にシワを寄せる。
今、電話すると感情的になっちゃいそうだしな……でも既読つけちゃったから返信しないのも辺だよね。なんて考えていると私の手の中でスマホがブルブルと震えだした。タイミングがいいのか悪いのか……もちろん相手は圭介だ。
仕方ない、と通話ボタンを押して声をかける。
「もしもし」
「おー。今ダイジョーブ?」
「うん、どうかした?」
「何かないと電話しちゃいけねーの?」
「そういう訳じゃないけど、何かあったのかと思って」
例えば金髪美女と。──と心の中で付け足しながら、いつも通りに受け答え。
電話の内容は今度のデートに対するもので、どこに行くか何をするか、そんなことを二人でつらつらと話し合いながらたまに他愛のない話を盛り込む。いつもならスマホ越しに聞こえてくる、彼のくつくつと笑い声を押し殺すような声にきゅんと胸が跳ねるところだが、今日はそうもいかない。いつもより生返事が多かったせいか、圭介が少し不思議そうな声で「なあ」と問いかけてきた。勘がいいのも困りものね。