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【場地圭介】ペットショップの店員にパンツ見られました

第12章 私と圭介と万死一生と


「……ならイヌピーくん来るまでいるワ」
「なんで?」
「帰ったら俺がイヌピーくんに怒られるだろーが」

 連絡しとく。そう言って私の隣に腰を下ろした圭介は私の方をチラリと見やったかと思うと、反対方向へ顔を向けてしまった。
 人気のない──瀕死が三人ほどはいるけれど、そんな公園のベンチへと移動して無言のままどれくらいが経っただろう……数秒かもしれないが数分かもしれない。時間感覚を失った私は、ただただイヌピーが早く来てくれるのを願うばかりだ。……気まずい。
 そう思った瞬間、私のスマホからいぬのおまわりさんが流れ始めて微妙な空気感を作り出す。うん、イヌピーからの着信音をこれにしとくんじゃなかったな。

「もしも──」
「無事か!?」
「無事だよ」
「怪我は?」
「ちょっとある、かな」
「そうか。……場地は?」
「隣にいるよ。代わろうか?」
「いや、いい」

 バイクの排気音が電話越しに聞こえるので、きっとバイクに乗って私を探しに来てくれたのだろう。イヌピーの安堵した声に申し訳なさが募る。

「ここに来るまでどれくらいかかりそう?」
「あぁ。俺は行かないから」
「──は?」

 な、なんで? と慌てる私とは対照的に落ち着いた様子で話し始めたイヌピーの声は、なぜだかとっても呆れている。

「俺がいったら邪魔だろ」
「だからなん──」
「から声、かけんだろ?」

 イヌピーからの言葉にグッと言葉を詰まらせる。そうだ……私から声かけなきゃって話をしてた。でも、さっきあからさまな態度取っちゃったし……どうしよう……。
 何も話さなくなった私に、無言は肯定だとでも受け取ったのか「礼は場地と付き合ってからな」と念を押され、無情にも電話が切られてしまった。どうしたものかと真っ暗になったスマホを見つめていると、隣から控えめに声をかけられてそちらに顔を向ける。視線こそ合わないけれど、先ほどの声はどう考えても圭介から発せられたものだった。

「……ごめん」

 静かな夜の公園で無ければ聞き逃してしまいそうなほどの声量で、謝罪の言葉をこぼす圭介になぜ? と疑問ばかり。ゆるゆると上げた彼の顔がこちらを向いて──久々に視線が合う。
 お互いの視線が絡まる中、一筋の風が吹き抜け……まるでこの世に二人しか存在しないような感覚に陥る。
 きっと今が、私が──素直になる瞬間なんだ。



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