【場地圭介】ペットショップの店員にパンツ見られました
第12章 私と圭介と万死一生と
「……二人は何でここにいるの?」
「イヌピーくんから店に電話来たんですよ」
「イヌピーから?」
「ちゃんが大変だって。それを場地さんに伝えたら飛び出していっちゃって」
只事じゃなさそうだったんで、俺も一虎くんに店任せて追いかけてきたんです。そう言う千冬さんは「とりあえず間に合ってよかった」と私の体を起こして、ふわりと自分の上着をかけてくれた。いつでも優しい彼の温かさに触れ、鼻の奥がツンとくる。
かけてもらった上着をぎゅっと握りしめ、かかえるようにして膝を抱き締めて顔を埋める。安心したからか、瞳から温かいものがツーと流れ落ちて私の頬を塗らした。
「千冬ぅ、ちゃん家まで送ってやってくンね?」
「えっ? 俺がっスか?」
「おー。俺、先に店もど──」
「ああー!」
いきなり大きな声を出した千冬さんに驚き、大きく肩を揺らす。何事かと顔を上げれば、わざとらしく手で口元を押さえた千冬さんが棒読みで話し始めた。
「俺、走ってる途中でスマホ落としたみたいで」
「ア? そのスボンのポッケに入ってんだろ」
「え? あ、いや、これメモ帳なんで! ちょっと走ってきた道探してきます! だから場地さん、さんのことお願いしますね!」
じゃ! と片手を挙げて走り去っていった千冬さんは瞬く間に姿を消した。隣から「相変わらず足早ェな」という声が聞こえてきたが、激しく同意である。そして、できることなら圭介と二人きりにしないでほしかったな。
どうしたものかと頭を捻るもいい案は浮かばず……とりあえず圭介から離れたい一心で立ち上がろうと足に力を込めたところで、私の悩みの種からそれを片手で制されてしまった。ムッとした表情のまま見上げると、少し困ったような表情をしながら「無理すンな」と声をかけられ、ぐっと息がつまる。……誰がそうさせてると思ってるのよ。
「無理なんかしてない。帰る」
「家までおぶってやるから、乗れ」
「いらない。一人で帰れる」
「んな格好で歩かせられるワケねぇだろ」
「ならイヌピー呼ぶから。場地さんは帰っていいよ」
なんでそんな傷ついたような顔をするの。なんでそんな悲しそうな顔をするの。なんで──ここに来たの。わからない。わからないよ、私。