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【場地圭介】ペットショップの店員にパンツ見られました

第12章 私と圭介と万死一生と


 痛い痛いとわめきたてる彰人の声に混じって、遠くの方から「場地さーん! どこっスかー!」と叫んでいる千冬さんの声も聞こえてきた。……お店、放り出してきたのかな。

「ばじ、けいすけ?」
「お? 何、お前俺のこと知ってンの?」

 これまでのことを傍観していたもう一人の男が耳慣れない言葉を繰り返すように、かたことと言葉を紡ぎだす。この殺伐とした空気に不釣り合いなほどニカッと嬉しそうに笑った圭介は、彰人をいたぶるのを止めて腰を抜かしている男の前にしゃがみこんだ。

「何? お前も東卍だったンか?」
「いや……違うチームの……」
「だよなァ」

 野球のボールを掴むように容易く──圭介は片手で男の顔を掴み上げた。いまだニコニコと笑っている彼はいったい何を考えているのだろうか。いや、彼の考えてえいることはなんとなく──。

「ぎゃあァア!」

 わかったのだけれど。

「俺の仲間にこんなクソみたいなことする奴いねェから」

 ギリギリミシミシ。骨の軋む音と共に圭介の手にどんどん力が込められていく。一気に阿鼻叫喚の地獄と化したこの場に、耳をつんざくような悲鳴が響き渡る。さすがにやりすぎなのでは……そう思った瞬間「場地さんッ!」と金髪碧眼のまさに救世主が現れて圭介の腕を掴んだ。おぉ……彼は天使じゃなくて神だったのか。

「千冬ぅ、何止めてンだよ。離せ」
「今はこいつらよりさんのが優先です」
「……チッ」

 渋々と言った感じで手を離した圭介。彼に顔面を捕まれていた男は気を失ってしまったらしく、糸の切れたマリオネットのようにその場へ横たわった。終わった、のかな……いろいろと。
 起き上がる気力もなくて、ずっと地面と仲良くしていた私は視線だけで辺りをぐるりと見渡す。大人の男が三人も倒れているこの空間は、どう見ても異質だった。

「大丈夫……じゃねぇよな。どう見ても」
「……」
「あー、ほっぺも腫れてンな」
「もう私に話しかけないんじゃなかったの?」

 助けてくれてありがとう。と言うべきところなんだろうけれど、これまでのことが頭をよぎってしまった私の口から飛び出すのは可愛げのない言葉。
 私の言葉に圭介はピタリと動きを止めて「あー……そうだったな」と悲しげに眉を下げて笑う。なんで圭介がそんな顔するのよ。泣きたいのは──私の方なのに。
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