【場地圭介】ペットショップの店員にパンツ見られました
第12章 私と圭介と万死一生と
「一人じゃ何もできないのね。この甲斐性なし
」
パァンと小気味いい音が辺りにまた鳴り響く。
痛い。痛いけど、耐えられる。これならイヌピーに殴られた方が痛いわ。殴られたことないから多分だけど。
「彩音の誘い断っただろ!」
「だから何よ。私にも断る権利くらいあるもの」
「俺に泣いて電話してきたんだぞ? 菜那子に嫌われてるかもしれないって」
「あら。嫌われている自覚あったのね」
カッカッと面白いくらい頭に血を上らせる彼を見ているからか、私の心は至って冷静だ。感情的にさせたら隙をついてにげられるかもしれないし。
ただ問題はーー。
「は?」
逆上してくる可能性があるってこと。
「痛い目に合わないとわからないのか?」
街灯にキラリと光ったのは刃渡り十五センチほどのナイフ。またもや電話越しでイヌピーに言われた言葉が頭の中を何度も巡回していくはめに。
おいおいイヌピー。君はフラグ建築士か何かなんですか? 今度から彼には重要事項以外のことを話すのやめてもらお。私の寿命が縮む。物理的に。
「銃刀法違反って知ってる?」
「うるさい!」
「ここまでバカだなんて。そりゃ菅野さんも呆れ返るわけよね」
「うるさいッ!」
風を切る音ともにピリリとした痛みが私を襲う。痛みのした方を見やると私の服は胸元が大きく切り裂かれ、そのときに刃が当たったのであろう肌には薄っすらと赤い血が滲んでいる。
あー……もうダメだ。これ以上、口でやりあったとしても力で負ける。これから私に起こるであろう最悪の未来を想像しながら瞳を伏せる。
嫌だな。でも、ここで命を落とすのはもっと嫌、かも。
「やっと大人しくなったな」
「ホント馬鹿力だな、この女」
「もう少し人のいないところへ移動するか」
まるで散歩を嫌がる犬のように引き摺られては、近くの人気がない公園まで連れて行かれる。首輪の代わりに後ろ手で腕を紐のようなもので拘束され、首元を何度もナイフが掠めては私の肌を赤い糸のような血のすじが浮かび上がる。
あー……こんなとこまで来ちゃったら通行人も来ないじゃん。ワンチャンあるかもって狙っていたのに。
冷たい風に晒された素肌はもちろん、心臓までもが氷のように冷たくなっていくのを感じては唇を強く噛む。もうどこが痛いのかわからない。