【場地圭介】ペットショップの店員にパンツ見られました
第12章 私と圭介と万死一生と
「刺青入ってようが何だっていいでしょ! 私の友だちを悪く言わないで!」
「あんなのが友だちとかお前終わってんな」
「終わってんのはあんたでしょ! このろくでなし!」
「うわ! やっぱこの女、力強ぇ」
一発ぶん殴ってやろうと手を動かすもそれは未遂で終わってしまった。後ろを振り返ると顎を押さえて痛そうにしている男と、驚いたような呆れたような顔色を浮かべる男の二人が目に入った。
ん? この二人どこかで見たような……。
「ちゃんって言うんだね。前は名前も教えてもらえなかったから」
「……誰?」
「はあ!? 誰? だと!? こっちはお前のせいで鼻血止まらなかったんだぞ!」
「鼻血?」
なんのことやらさっぱり。私のせいで鼻血止まらなかったって何?
身に覚えが無さすぎて小首を傾げていると「コンビニで!」と男がデカイ声で叫び始めて思わずびくりと肩を揺らす。コ、コンビニ?
「お前に蹴られたせいで!」
「──あ。もしかしてあのときのナンパ男?」
何ヵ月も前のことだから正直忘れていたけれど、道理で見たことある顔のはずだ。
「何? そんなに私のことが忘れられなかったの? モテる女はツラいわあ」
強がってみたものの、先ほどまで顎を押さえて痛そうにしていた男に顔をグーで殴られ、頭の中が円を描くようにぐわんぐわんと揺れる。ついでに口の中も切れたのか、血の味までしてきて気持ち悪い。
イヌピーの「相手が一人とは限らねぇだろ」と言う言葉が頭の中で反芻しては虚しく消えていって、何だかイヌピーに呪われているような気持ちになってきた。イヌピーは全然悪くないんだけれど。精神的に誰かのせいにでもしないと、やってられないわ。
「あんたたちなんか東京湾に沈められて魚のエサにでもなってきたらいいのよ」
目の前にいる彰人に向かってツバを飛ばす。こんなのと五年も付き合っていたとか、もはや私の黒歴史。記憶から抹消したい。まあ、相手も同じことを思っているかもしれないけれど。
「この女……!」
「あら、ごめんなさい。ついつい本音が出ちゃった」
「舐めやがって!」
乾いた音と共に頬へ衝撃が走る。