【場地圭介】ペットショップの店員にパンツ見られました
第12章 私と圭介と万死一生と
「あーだめだめ。未練がましすぎるでしょ」
やっぱり新しい出会い探そ。忘れられるかどうかじゃなくって、忘れなきゃ。できるかどうかの問題じゃない。
コツコツと足音を響かせながら歩いていると、後ろからもコツコツと足音がついてきていることに気がつく。最初は向かう方向が同じなのかと思って気にしないようにしていたが、ずっと一緒の方向に来るので、少しだけ不安が芽生え始め、心臓がドクドクといつもより働きだす。
そんなまさか、ね?
「……コンビニ寄ろう」
コンビニに寄って、それでもまだ後ろをついてくるようなら──絶対にヤバい奴だ。特に用事はないけれど、コンビニに寄ってビールを一缶手に取る。店員さんからやる気のないお礼を言われたが、私は今からやる気だ。何がとは言わないけれど。
まるで戦に赴く武士のような気持ちでコンビニの自動扉を通り抜けて、また歩き出す。先ほどより意識を後ろに集中させると、コツコツと足音がまたついてきているのが感じられた。
先ほど買ったビールを片手に握りしめ、ざわつく心を深呼吸で落ち着かせる。──よし。
「先手必勝でしょ」
小さく呟いてから、次の曲がり角まで一目散に走り出す。今日に限ってヒールなのが悔やまれたけたけれど、こんなに走るなんて想定しなかったから仕方がない。
誰かが後ろから走ってくるような激しい靴音が聞こえてきて、ドキドキと耳のすぐそばで心音が鳴っているような錯覚を起こすくらいには緊張している。
角を曲がったところで急ブレーキ。いい感じに振られたビールの缶を片手で開ければ、カシュッと小気味いい音ともに中身が溢れ出してきた。体を捻って勢いよく後方の地面にその缶を投げつければ「うわ!」と驚く聞きなれた声が耳に届き、思わず足を止めて後ろを確認する。
私の悩みの元凶が──煩わしそうに眉根を寄せて、そこに立っていた。