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【場地圭介】ペットショップの店員にパンツ見られました

第12章 私と圭介と万死一生と


「さてと。帰りますか」

 ロッカールームへと戻れば、菅野さんがスススと私の横まで近寄ってきて「せーんぱい」と鈴の音のような愛らしい声で呼び掛けてくる。

「さっきの電話、新しい彼氏さんですかぁ?」
「彼氏じゃなくて、幼馴染みなの」
「そうなんですね! 私、てっきり圭介さんから乗り換えたのかと思ってぇ。心配してたんですよ?」

 ──どの口が言うのか。
 そんなこと、微塵も思っていないくせに。

「私でよければお話聞きますよ?」
「間に合ってるから大丈夫。ありがと」
「ご飯でも行きます?」
「ごめんね、今日は帰ろうと思ってるから」

 会話のキャッチボールがあまり出来なくて少しイライラしながら、当たり障りのない言葉を選んで返す私はえらい。本当にえらい。
 そっかぁ、残念。と言いながら、どこか嬉しそうな顔をした彼女になんとなく違和感を感じつつも、イヌピーと鉢合わせてどやされる前に帰らないと! って気持ちの方が強くて──私はその違和感を胸に抱えたまま、お店を後にした。
 もう三月と言えど、夜はまだまだ寒い。チェスターコートの前を握りしめて、帰路へとつく。

「お花見したいなあ」

 言っている間に桜が咲くだろうから、イヌピーやドラケンくんとバイクでお花見に行きたいな。たまにはクッキーとかパウンドケーキとか焼いてお花見──いや、やっぱりお酒飲みたいから電車でみんなで行こう。二人ともお酒強いからお酒たくさん買って、おつまみ用意してって絶対楽しい。
 明日のお迎えのときにイヌピーかドラケンくんに怒られるのは明白だけど、ちょっと打診してみよ。嫌だって言われたら一人で行こ。──本当は。

「一緒に行きたかったなあ……」

 蘇る記憶は冷たい眼差しの彼ばかり。切れ長の目が合間って、その圧といったら常人の五倍はあると思う。……だからこそ、笑うと柔らかく三日月のように細められたあの目が好きだった。
 そう、好きだったんだよなぁ……。
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