【場地圭介】ペットショップの店員にパンツ見られました
第11章 私と圭介とイヌピーと
「なんで諦めるんだ?」
「なんでって……」
「好きなら好きでいいだろ」
「……それだと、私が苦しくなっちゃうから──」
「当たり前だろ」
私の悲観的な言葉を食い気味に遮ってきたイヌピーは、先ほどよりも真剣な眼差しで私の顔を覗きこんだきた。青々とした萌黄色の瞳が射ぬくように私へと突き刺さって、なんだかばつが悪い。
思わず目を反らせば、私の両頬を片手で潰すようにして無理矢理視線が合わせられる。ガラスのように綺麗なその目に、思わず吸い込まれてしまいそうで……今度は目が離せなくなってしまった。
「相手を真剣に思っていたら、苦しくなるときがあるのは当たり前」
「……」
「だけどそれ以上にいいことある。絶対」
「いいことだけがいい……もう前みたいな思いするの嫌だ……」
「場地なら大丈夫」
「何を根拠にそう言うの?」
「人の痛みがわかる奴だから。だからと一緒でも安心できる」
「とか言いながらそんな場地さんをさっきぶん殴ってたじゃん」
あれは場地が悪い。なんて知らん顔でイヌピーが言うもんだから、思わず小さな笑いがこぼれた。
そっかあ、イヌピーは圭介のこと信頼してるのね。それなのに私は……。
「あのねイヌピー」
「なんだ?」
「好きになればなるほど、その気持ちを曖昧にしたくなっちゃうの」
「好きなのに?」
「うん。だってね? 私の心がどんどん醜くなるの。妬んで、欲張って、歪んでくの」
「……」
「いっそ嫌いになれたら楽なのにさ、それもできなくて。めんどくさいやつだよ、私って」
泣きそうな顔でどうにか不細工な笑顔を作る。眉は情けなく垂れ、口の端はひきつっていて、不細工な笑顔選手権があればきっと県内一位くらいは取れると思う。
そんな私の頭を優しく撫でてくれるイヌピーの手に心が絆されて、涙がぽろぽろと重力に勝てず落ちていく。
ああ……本当にめんどくさいやつだよ、私は。